Jul 31, 2023
仮想世界で そのなな
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バーボンハウスの前では、
ドーダとソーダが、ドーラの
ダーダーという歌声に聴き入っていた。
低音のビブラートが渋い。
そーだねー。
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ドーラは食べ物がもらえて嬉しくて、
喜びの歌を歌っているのだった。
このナーガラどうしたの?
ヒゾッコが東エリアまで飛んで、
捕まえてきてくれたんだよ。
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ミトラは向日葵の花を運んできた。
裏の畑のそばに咲いていたんだ。
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濾過装置で作った、
園芸用の溶液に浸せば、
長持ちするよ。
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これで夏いっぱいは持つね。
あ、ツナたちが戻ってきたよ。
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サイドカー部分に椅子やテーブルを満載した
ツナの運転するオートバイが到着した。
おかえりツナ。
ナディアさん来てるよ。
収穫はどーだ。
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早速荷下ろしをしていると、
バイクの音をききつけたドロレスとナディアも
バーボンハウスから出てきた。
お邪魔してるわツナ。
やあラパス。
あ、ナディアって呼んでって言ってるでしょ。
ああごめんごめん。
つい癖になっちゃってて。
シェルターは留守にしてきて大丈夫なの?
ロボット犬のエリーが留守番してくれてる。
そうか。あ、そうそう、
今日は東エリアまで行って、
テーブルセットを拾ってきたんだ。
早速部屋で使うから
ナディアも運ぶの手伝ってよ。
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しばらくのち、四人は
戦利品のテーブルを囲んでくつろいでいた。
ラパス、じゃなかったナディアの作るこれ、
チョコパフって言ったっけ。
美味しいんだよね。とツナが言っている。
ツナさん、どうしてナディアさんのことを
ラパスって呼んじゃうんですか?
とドロレスが聞いた。
ああ、それはね、彼女はCGの最強戦士として、
ラパスってコードネームで呼ばれてて、
勇猛果敢ですごく有名だったの。
本名の苗字そのままだったけど、
ラパスってフランス語で猛禽類のことだしね。
名は体を表すっていうじゃない。
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ナディアから母親マヤ・ラパスの写真を見せられた
レイチェルは、しばらく見ていて思い出した。
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この人、去年のハロウィンのコンテストに、
ひょっとこのお面被って、参加した人でしょ。
この写真の金髪と青い服、見覚えがあるわ。
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あなたのいう去年って、
ずっと昔で、2022年のハロウィンのことね。
とナディアが言った。
母は、ちょうどその頃、
アンっていうロボットに興味を持って、
その町の広場に通い始めたの。
ハロウィンのコンテストが盛大だったって、
聞いたことがあるから、きっとその時のことね。
でも、ひょっとこのお面で
自分も参加したとは言ってなかった。
きっと娘には言いたくなかったんじゃない?
それはあり得るわね。
解説)
ナディアの母マヤがお面を被った画像は、
2022年10月22日「もうすぐハロウィーン そのさん」
から再掲しました。
ちなみに、お面の女性がマヤだとわかるのは、
髪の色や服装からだけで、
マヤがお面を外して素顔を見せる画像は
掲載されていません。
このフィギア(ヘッド)は当時購入して日が浅く、
まだ名前もつけていない観光客の一人として、
登場していたのでした。
Jul 30, 2023
仮想世界で そのろく
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そうそう、これも忘れないうちに。
と言いながらナディアはバッグから
黒っぽいベストを取り出した。
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それはCGの装備品。
背中には特殊な運動補助装置が縫い込んである。
軽量だけど防弾機能もあるから
人間に使ってもらえればと思って持ってきたの。
ありがとう。
CGって言うと、ナディアさんは、
CGの唯一の生き残りだって聞いたけど。
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そういうことになるわね。
でもあの戦争のことはあまり話したくないの。
それよりあなたたちのことが聞きたいわ。
あなたはCGのことも知ってるみたいだし、
過去から来たと言っても、それほど遠い過去じゃない。
もしかすると私の母と同世代かもしれない。
そういうとナディアは、
バッグの中をもぞもぞと探し始めた。
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ナディアがバッグから取り出して
ドロレスに手渡したのは
一枚の写真だった。
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この人、あなたに似てるわね。
母なの。マヤ・ラパス。
母は若い頃、CGのメンバーだった。
私がCGになったのも母の影響よ。
同時代を生きていたなら、
どこかで見かけたりしたことが。
ドロレスは写真を眺めて、
じっと思い返していた。
ロボットだった時の記憶は
この仮想世界に来ても維持されているようで、
やがてベーカリー前の広場で
何度か見かけたことがあったのを思い出した。
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この人、私の住んでた町の広場で見たことがある。
町の住民じゃなくて、観光客だったと思うけど。
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そうそう。
町の広場ではいつも
大道芸人たちが歌を歌っていて、
この人が投げ銭をあげていたの思い出した。
優しい人なんだなって思った。
その町の広場って、
アンっていうロボットやドラゴンの子供がいて、
ちょっとした観光名所だった。
一時期、毎月コスプレのコンテストが開かれてたでしょう。
ええ、同じ町に間違いはないわ。
とドロレスは言った。
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母はね。そのコンテストで優勝したことがあったの。
とナディアは言った。
それは何かの勘違いじゃない?
優勝した人の中にはいないはずよ。
とドロレスは言った。
やっぱりここはシステムの作った仮想世界だわ。
母から直接聞いたので、日付も覚えてるわ。
2023年の7月のコンテストよ。
え。そうなの。
と、少し考えてからドロレスは言った。
毎月のコンテストの優勝者の発表は
翌月の初めだったはず。
だから、過去の私にとっては、
その出来事はまだ起きていない。
未来に起きる出来事なのね。
解説)
ナディアの母マヤ・ラパスは
昨年2021年のハロウィンの頃から
町の広場で観光客として時々顔を出していて、
過去の画像を探すと、いくつか
広場での情景の背景に写り込んでいます。
今回はそのうち2枚を再掲しました。
Jul 29, 2023
仮想世界で そのご
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挨拶を済ませて、
ドロレスはナディアと
会話を弾ませている。
バンクはナディアの積んできたケージに
興味を惹かれているようだ。
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この車プロペラで走るんですか。
搭載しているタンクからOXガスを噴霧して
それを拡散することで動力にしているの。
それに夏場は扇風機にもなるわ。
涼しそうですね。
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ナディア、このケージの中。
ああ、ドラゴンの子供ね。
私に懐いてるけど、
外に出しとくと飛ばされちゃうので、
ナーガラ用のケージにいれてきたの。
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ドーラっていう名前をつけたのよ。
ドーラはダーダーと言った。
ドロレスはドルフィンで
CGたちが世話をしているドラコと、
形状がよく似ていると思った。
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その時、裏の畑にいた、
ミトラが顔を出した。
やあ、ナディア。
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今日ものっぺりした青空のいい天気で、
この暑さは人間にはきついでしょう。
部屋に入って涼んだら?
そうね。私は慣れてるけど、
じゃお言葉に甘えて。
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ドロレスがコーヒーの準備をしている間に
ナディアは持参したバッグの中から、
紙袋を取り出して
その中身を皿の上に盛った。
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これ美味しいね。
ドロレスは人間になったおかげで
普通の甘味を感じられるのが嬉しかった。
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植物栽培機で育てた
小麦の生地をベースにチョコレートで
コーティングしてあるの。
これは母の好物だった。
過去からあなたたちが来てるって聞いて、
久しぶりに腕を振るったのよ。
とナディアは嬉しそうに言った。
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いつだったか。
ドロレスは、探偵事務所で
暮らすようになってまもない頃、
貰い物のお裾分けということで、
これと同じものを食べたことを思い出した。
しかしその頃は人間のような味覚はなかったので、
食品にはほとんど関心を持たなかったのだった。
解説)
ドロレスが思い出したのは、
2022年の5月に、モモコが魔術劇場のハリーの魔術で
ジェーンの住む世界に行った時、
お土産に持ち帰った食べ物のことでした。
食べた住人たちは「クリームなしのエクレア」
などと呼んでいましたが、
単なる麦チョコを使っています。
2022年5月15日「ジェーンとの再会」
モモコは帰還後、魔術劇場の住人や
ベーカリーのCGたち、ジェニーたちにも
このお土産を配っていますが、
ドロレスがもらって食べているシーンは出てきません。
Jul 28, 2023
仮想世界で そのよん
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その頃ドロレスは
バーボンハウスの前で
射撃の練習にいそしんでいた。
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特殊な弾丸なので
標的に命中すれば。
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大抵の金属装甲なら
一撃で破壊する威力がある。
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短時間に随分上達したね。
銃の扱いは初めてだけど、
照準の合わせ方の感じが掴めたわ。
でも結構反動が大きくて。
人間は筋トレしないとね。
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その時空中で
ヒゾッコが声をあげた。
ナディアが来たみたいだよ。
ナディアって?
ラパスさんじゃないの?
ナディア・ラパスっていうんだ。
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西の方角から一台の車両が近づいてくるのが見えた。
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ナディアは
愛車のビーグル号に乗っている。
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こんにちわナディア。
やあソーダ。
元気そーだね。
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あなたが過去からのお客様の一人ね。
私はナディア・ラパス。
ナディアって呼んで。
あと、その物騒なものはしまってね。
とナディアはドロレスに言った。
解説)
ナディアのビーグル号は
ドイツ軍オートバイのサイドカー部分と
バービー人形用の馬車の車体と車輪、
ミニ扇風機などを、
組み合わせて適当に合体工作したものです。
すぐ分解可能。
Jul 27, 2023
仮想世界で そのさん
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ナーガラは通気孔を目指している。
レイチェルは腰のホルスターから
リボルバーを素早く引き抜くと、
即座に射撃した。
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一発で頭を吹き飛ばされたナーガラは、
その場で動かなくなった。
レイチェルさんすごい早打ち。
ナーガラは生体の体温や
二酸化炭素を感知します。
たぶんツナを狙ってきたのでしょう。
通気孔の中からツナの声がする。
急に変なもの落とさないでよ。
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やがてシェルターの探索を終えたツナは、
通気孔から顔を出して、
椅子をかざしてレイチェルに手渡した。
ここはすっかりブラッキーの巣になってた。
他にも使えそうな家具を運び出すから
手伝って。
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これで最後よ。
それは何?
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カプセル入りの脳髄。
この脳、まだ生きている。
でも、このままじゃ
早晩装置のエネルギー切れで
ただの標本状態になるところだった。
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ツナが言ってた信号って、
その脳が送ってきたのかな。
とコーダが言った。
その可能性はありそうね。
このタイプのカプセルは
サイボーグの体にも装着可能なの。
でもシェルターにボディは見つからなかったから、
ブラッキーがどこか別の場所で、
動けなくなったサイボーグから
カプセルだけ外して巣に運んで
食料として貯蔵してたのかもしれない。
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食料って言ったら、私お腹すいちゃった。
そろそろバーボンハウスに戻りましょう。
というツナの声がはっきり聞こえたが、
レイチェルにとっては
視界がまた一瞬静止したようだった。
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ねえツナ。
このテーブルセット必要なの?
まだ使えるでしょ。
資材も食料もなかったし、せめてものお土産よ。
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このシェルターは、
岩盤を利用して作った洞窟の、
上部を特殊なコンクリートで遮蔽した
作りかけのものだった。
ブラッキーの巣になってたけど、
通気孔にきっちり蓋をしといたから、
何かの時には使えるかもね。
貯蔵庫とか?
牢屋とか。
解説)
捨てずにとってあった
発泡スチロールの緩衝材がまた活躍しました。
以前トーチカにも利用したことがあります。
2021年7月11日「捜索」。
Jul 26, 2023
仮想世界で そのに
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ツナは通気孔から
シェルターの中に降りて行った。
一人で大丈夫なの。
うん多分ね。
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内部は岩盤をくり抜いた
洞窟のようになっていた。
家具があるようだが、
黒っぽい網のようなものに覆われている。
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よくみるとそれは全体が巨大な蜘蛛の巣だった。
巣の一部が揺れて、
中から大型の蜘蛛が姿を現した。
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これはブラッキー!
ツナは即座に蜘蛛に向けて銃を連射した。
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蜘蛛の巣が覆っていたのは
テーブルと椅子のセットのようだった。
テーブルの上には蜘蛛の糸のヴェールに
覆われるようにして何かが置かれている。
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金属製の台座に据えられた
透明な球体の容器の中に
赤みを帯びたものが浮かんでいる。
このカプセルは。
世界がぼやけて一瞬モノトーンになったが
ツナには何も変化が起きなかった。

その頃、レイチェルは
スクラップの収集に余念がなかった。
レイチェルさん、
初めてなのに手際がいいですね。
それ使えそうなものなんですか。
ロボットの腕なんだけど、
付け根から切断されているだけ。
回路を接続すれば十分使えるはずよ。

コーダは何か見つけた?
私はこんな体なので、
廃品集めは苦手なんです。
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いつもツナがスクラップを集めるのを
護衛する見張り役なんですよ。
その時、コーダの後ろを、
一匹のナーガラが素早く横切ろうとしていた。
解説)
続きます。
Jul 25, 2023
仮想世界で

東のエリアの探索に向かったツナたちは、
瓦礫の広野を走っていた。
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未調査地域って言ってたわね。
どこか当てはあるの?
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以前に一度だけ、
信号が送られてきた場所があるのよ。
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場所はこのあたりのはず。

何かそれらしいものが
見えないかしら。
あ、あそこに。
とツナが言った。
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ラッキー。
これは多分シェルターの跡だわ。
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ここの瓦礫の陰に通気孔のような穴があるよ。
とコーダが言った。
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ここからなんとか
下に降りられそうね。
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私が様子を見てくるから、
二人はここで屑拾いでもして
待っていて。
とツナが言った。
解説)
続きます。
Jul 24, 2023
模様替え
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サラたちの部屋には
鷲尾翠が探偵事務所で飼っている
九官鳥を預けに来ていた。
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事務所が手狭になっちゃって。
しばらくの間だから。
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九官鳥はやや埃をかぶっているが、
元気な様子だ。
オセロが覗き込んでいる。
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この子名前なんて言ったっけ。
キューキューって言うのよ。
話しかけるとそう答えるから。
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ペンギンの前の空き地では
管理局の三人が話し込んでいた。
長い間、この世界で封印されてた魔物が
封印を解かれて迷いの森に戻って来たらしい。
森は異世界間の交差点のような場所だからね。
魑魅魍魎も含め、いろんな夢くい連中が
棲みついたり出入りしてる。
この前にもサルバドールが来たね。
私の部署でも全体はとても把握しきれてないわ。
と情報管理部のミラが言った。
今の局長もその点あれだからなあ。
管理がゆるゆるって言いたいんでしょ。
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その時、ペンギンの二階の探偵事務所から
探偵とアンがデスクを担いで降りてきた。
おや。模様替えですか。
ええ、これしばらく
ドルフィンの倉庫で預かって貰うんです。
だったらよかったらうちで預かりますよ。
とバグが言った。
うちは元はドルフィンの倉庫だったので、
スペースありますし、場所もすぐ目と鼻の先ですから。
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それは助かりますなあ。
と探偵が言った。
アンが担いでくれるので運ぶのは楽なんですが、
ドルフィンまでは距離が結構ありますから。
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探偵事務所では模様替えが
ほぼ完成していた。
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机とキューキューを預かってもらって、
部屋の一部をカーテンで
間仕切りしただけだけど、
これで不意の来客があっても安心ね。
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ドロレスとレイチェルは、
まだ睡眠中。っていうか、
仮想世界で暮らしてるのね。
ねえミュー。実験っていつまでかかるの?
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それがね。長くても1日の予定だったんだけど、
覚醒する設定機能がロックされちゃったみたいなんだ。
それって、システムの故障ってこと?
今精査中なんだけど、
解除しようとしても、
すぐに別のロックがかかっちゃう。
どうもシステムが意図的にやってるみたい。
じゃあ自発的に目覚めるのを待つしかないってこと?
揺り起こしてみたら?
それは危険よ。とシェリー博士が言った。
ドロレスの人工知能は壊れても
修理すればなんとかなるかもしれないけど、
人間の脳は無理。
解説)
ちょっと慌ただしい
事務所の模様替えのエピソードでした。
Jul 23, 2023
広場であれこれ
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翌朝のベーカリー前の広場です。
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フレイムは水戸里美と
焼きたてのパンの出来具合の話をしている。
歌声鑑賞の常連になったレオは
ドラコに話しかけて、
ダーダーと言われている。
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旅芸人たちは農家の直販店で
朝食後のデザートに試食をしている。
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ドミノは作曲したばかりの
「一角犬の歌」を子供たちに聴かせている。
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ドミノの曲最高だね。
ありがとう、君たちいつ学校に行くの?
知らないの?
もう夏休みなんだよ。
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ベーカリーでは、ルビーがアイスに、
マヤの紹介をしていた。
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こちらはマヤ。翠からレイチェルが
しばらくアンのメンテにこられそうもないって
聞いたから、本部の少佐に頼んで、
休暇中のところを来てもらったんだ。
元ロボット研究所にいた人で、
その才能を見込んでCGがスカウトしたっていう、
ばりばりの逸材だよ。
マヤ・ラパスと言います。
アンのことは前から興味があって、
このお店にもよく客として来てたから、
メンテできるなんて光栄です。
そういえば何度か見かけたかも。
私はアイス。よろしくね。
とアイスは言った。
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うーん。この人誰かに似てるなあ。
今月のコンテストの有力な優勝候補ね。
とボニーとマンスフィールドさんが話している。
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マヤの連れていたシェパードは
ベスを見かけてたじろいでいる。
ベスはサラが工作したツノを
つけたままベーカリーに返したので、
野良猫たちが怖がって近寄らず、
自分が強くなった気がしているのだった。
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デジャでは、
ハリーがヴィヴィアンと話していた。
昨夜は魔王メイヴとやらと、
派手にとっくみあったそうじゃないか。
それがなんかヤギの頭蓋骨みたいな顔してたのよ。
イカやタコじゃなかったのか。
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マンゴー亭では、
うたとキャサリンが朝食に肉まんを注文していた。
うたさん、すっかりお馴染みになって。
ええ、ジェニーたちの部屋でお世話になってるけど、
朝食はここで、って決めてるの。
今後のヒッチハイクのご予定は?
そうねえ。どこか面白そうなところ知ってる?
解説)
広場の平穏な朝のスナップでした。
Jul 22, 2023
夜の出来事 そのよん
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ヴィヴィアンは翼を広げ、
羽ばたくと空中に浮き上がった。
身動きの取れないメイヴは
懸命に呪縛を解こうとしている。
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ヴィヴィアンは空中から
メイヴに襲いかかった。
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ようやく呪縛を解いたメイヴは、
再び巨大化して立ち向かい、
ヴィヴィアンに衝撃波を放っている。
二つの影の乱闘はしばらくの間続いた。
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お前はどうやら魔族と吸血鬼の血を継いで
変成した悪魔のようだな。
どうりで尋常でない魔力を持つはずだ。
万が一、その力でまたあれの中に
封印されては敵わないから、
ここは退散することにするよ。
ヴィヴィアンは憔悴しきった面持ちで、
その声を聞いていた。
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しかしなぜそんなにムキになる?
人間を守りたいのか?
お前の力と勇気に免じて、
CGを滅ぼすというのは取り消してやろう。
私は自由が欲しいだけで、
人間の運命などには興味がないのだよ。
私は迷いの森にいるから、いつでも来るがいい。
しかし多分昔の仲間もいるので、
今日のように互角とはいくまいよ。
そういうとメイヴの姿は
巨大化したまま幻影のように薄れていった。
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ふっ。
魔王なんて僭称で、
あれはたぶん夢食いの成れの果てだわ。
とヴィヴィアンは吐き捨てるようにつぶやいた。
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メメは意識を取り戻したようで、
しきりにメーメーと鳴いている。
なんて言ってるの?
何が起きたかわからないけど、
憑き物が落ちた感じでスッキリした。だって。
とジェイソンが翻訳した。
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テーブルの上には黒い帽子と手錠が残されていた。
二人とも、どさくさに紛れて逃げちゃった。
またCGを狙ってくるかな。
ローズが諦めるとは思えないけど、
しばらくは大人しくしてるんじゃないかな。
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ヴィヴィアン、
大丈夫?
衝撃波まともに喰らって
体も翼もギシギシしてるよ。
でもあなたの魔力も相当効いてたみたいね。
普段から人形やカエルで鍛えてるからね。
そうだったの。
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やがて東の空が白み始めた。
もうそろそろ夜が明けるよ。
なんか長いようで短い夜だったね。
解説)
暗くてボケていてよくわからない
魔王メイヴと悪魔ヴィヴィアンの戦いは、
双方痛み分けの結果だったようです。
Jul 21, 2023
夜の出来事 そのさん
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ルビーもリボルバーを手にして
身構えている。
あれが魔王?
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世界征服?
私がお前に従うだと?
そんな約束を交わしたことがあったかな。
私は長い間封印されていた。
それは、その封印を解くための方便だよ。
いつかお前のような野望の持ち主が現れて、
伝承の秘密を解くことを望んでのことだ。
話している間に
魔王の体は次第に巨大になっていった。
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それはあんまりだ。
私たちは先祖代々、
中世の騎士団の頃から、
伝承を信じて、あなたを探索していたのです。
とローズが叫んだ。
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私の望みは自由を手に入れること。
世界征服などしてもしなくても、
お前たちの文明は近いうちに滅びていくだろう。
だが封印を解いてくれた礼に、
一つだけ願いを叶えてやろう。
とりあえずはCGへの復讐だったな。
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ふいに衝撃波のようなものが襲って、
アイスは軽く飛ばされて
尻餅をついてしまった。
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なんだ、さっきから頭上に
鬱陶しいコウモリが飛んでいるな。
ここには悪魔でもいるのか。
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それがいるのよね。
と言いながらヴィヴィアンが
現れた。
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さっきから話を聞いてると、
あなた封印されてたって言ったわね。
だったら私が、
また封印して差し上げるわ。
なんだお前は。
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見たところ娘っ子じゃないか。
私を封じることができるのは、
この世界で太古の神々と呼ばれるものだけ。
そんなことも知らないのか。
一旦縮小していたメイヴの姿は
再び巨大化を始めた。
しかし思うようにいかないようだ。
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その時、ヴィヴィアンの姿も
本来の悪魔の姿に変身した。
ヴィヴィアンはしきりに呪文を唱えている。
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なんてことなの。
この町には悪魔もいたなんて。
世界征服は、魔王メイヴじゃなくて、
魂と引き換えにあの悪魔に頼めばよかったかも。
あ、そんなこと考えてる場合じゃなかった。
今のうちに。
解説)
続きます。
Jul 20, 2023
夜の出来事 そのに
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メメは走り出して
ドルフィンから表に飛び出した。
紋章入りのTシャツに反応してるのかしら。
直に見せなければ大丈夫なはずだよ。
とアイスが言った。
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メメはその場に座り込んで、
動かなくなった。
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ローズが仲間に耳打ちしている。
私のドレスの背中のジッパーを下ろして。
え。暑いので、ここで服脱ぐんですか。
そうじゃないのよ。
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CGたちに気づかれないように、
そっとジッパーを下ろすと。
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ローズの背中の腰の辺りには、
ジゾックスの紋章のタトゥーが
彫られていたのだった。
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それを見たメメは
グッタリと脱力して
眠り込んでしまったようだ。
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するとあたりに薄い煙が立ち込めて
大柄な人影のようなものが現れた。
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私を呼び起こしたのは誰か。
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おお、あなたが魔王メイヴ。
やはり伝承は偽りではなかったのね。
私の名はブラッディ・ローズ。
あなたは自らを呼び起こした
紋章を持つものに従うと聞きます。
私の望みは世界征服。
と、ローズは叫んだ。
とりあえずはジゾックスを
壊滅に追いやった組織CGへの復讐です。
解説)
ローズの背中のタトゥーは、
販売当時からローズのフィギアの
ボディについていたものを
そのまま利用しています。
Jul 19, 2023
夜の出来事

夜が更けてもデジャは営業していた。
お客さんはあまりきていないようだ。
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ガラス戸越しに広場の夜景を眺めていたマリアは、
横切っていく数人の人影に気がついた。
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アイスと翠が拳銃を構えているのが見える。
二人は手錠をかけられている。
なにかあったみたいだよ。
CGが誰か二人連れを連行してる。
観光客みたいだけど。
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やっぱりね。
とヴィヴィアンが言った。
さっきからしきりにヒソコが
超音波送ってくるのよ。
あの子は若干予知能力があるので、
胸騒ぎがしてるみたい。
あ、ジュークボックスの電源切れたわよ。
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ベーカリーの椅子の片付けをしていた
ルビーとスーザンは、
一行にすぐ気がついたようだ。
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随分と遅かったわね。
連絡があったから心配はしてなかったけど。
目立たないようにしたかったから。
あ、あなたがブラッディ・ローズね。
組織が壊滅して随分経ったから、
生きていたとしても
更生したんじゃないかと思ってたけど。
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ヒソコは何かを感じ取って、
しきりにヴィヴィアンに呼びかけている。
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メメも興奮してメーメーと鳴き始めた。
どうしたんですか。
とマスターが訊いている。
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世界征服なんてこと、まだ考えてたなんて。
マンガやアニメの見過ぎじゃないの。
とルビーが言った。
解説)
不穏な夜は更けていきます。
Jul 18, 2023
せせらぎの夢 そのに
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私はモモコ。
あなたたちは?
わたしたち、
こう見えてもウサギなのよ。
そう思うでしょう。
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モモコっていうんだってさ。
だったらあれあげようか。
ウサギたちは何か相談しているようだ。
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これをあげるよ。
あら美味しそうな大きな桃ね。
桃のようで桃じゃないんだ。
トロの実っていうんだよ。
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モモコは大きな実を手にとってみた。
ずしりと重たい。
でもどうして私に?
それは美味しいからでしょ。
きっとすごくおいしいから。
どこからとってきたの。
それは黄泉平坂に決まってるのよ。
あなたたちはどうしてここにいるの?
今年は私たちの年だから。
みんなすぐ忘れるけどね。
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モモコは皮を剥いて
ガブリと食べてみた。
とろみとこくが口に広がる。
食べた食べた。
ほんとに食べた。
ウサギたちが嬉しがっている。
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ウサギたちのはしゃぐ声が、
せせらぎの音のように弾けていく。
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あや。モモコお目覚め。
どんな世界だった?
わけわかんない夢。
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その時、エリスが遊びにやってきた。
あ、エリス珍しいね。
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事務所が立て込んでるので、
散歩して時間潰してたんだけど、
広場の直売店でこんな果物売ってたの。
珍しかったから買い込んできちゃった。
みんなでいただきましょう。
わー豪勢だね。
解説)
よくわからない夢の世界でした。
Jul 17, 2023
せせらぎの夢
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ジェニーたちの部屋では、
あみだくじの結果、
モモコが最初に貝殻を使うことになった。
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モモコさあ、浮き輪つけても、
海の夢が見られるわけじゃないらしいよ。
うん。
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でもいいの。
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せせらぎの音に聴き入りながら、
モモコは眠ってしまった。
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モモコは小川のそばに立っていた。
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上流の方に行ってみよう。
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おや、あれは。
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それはウサギのようだった。
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あら珍しい。
あなたはだあれ?
解説)
今年の初め頃にダイソーで見つけた
ウサギのマスコットを使っています。
浮き輪はセリアで。
Jul 16, 2023
サラたちの部屋で そのに
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アイスが銃を構えていると、
鷲尾翠がやってきた。
ああ、いいタイミングね。
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あなた、悪いけど、
その紋章入りのTシャツ
このTシャツと着替えてくれない?
その紋章はとても危険物みたいだから。
と翠が言った。
え。ここで?
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CGってほんとに容赦ないんだね。
まあ、しょうがないっか。
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アイス。
ポーチの中に小型拳銃が入ってたよ。
やっぱりね。
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これからドルフィンまで来てもらう。
本格的な尋問は本部で行うことになるから、
覚悟しといてね。
手錠までかけるの?
もちろん。
逃げたり抵抗したら射殺許可が出てるのを
忘れないように。
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まだ行かないの?
しばらくすれば人通りが少なくなるし、
手錠も目立たなくなる。
せめてもの温情ってわけね。
まだ少し時間があるわ。
それまでに何か言いたいことはある?
二人は黙り込んでいる。
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メアリー=ケイトが話しかけた。
ツノのあるペットのこと、
私が騙したみたいになっちゃったけど、
ごめんなさいね。
あの時は何も知らなくて、
本当のことを言っただけなの。
あとですり替えようっていう話になって。
じゃあ、本当にいたのね。
とローズが呟いた。
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今はドルフィンで預かってもらってるわ。
ローズの目がわずかに輝いたようだったが、
誰も気が付かなかった。
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やがて夜がふけて、
四人はドルフィンに去っていった。
なんかCGたち、すごい迫力だったね。
うん。
ケン、ずっとこっち向いてた?
も、もちろんだよ。
解説)
緊張をはらみつつも、
サラたちの部屋では
無事ことなきを得たようです。
Jul 15, 2023
サラたちの部屋で
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サラたちの部屋では、
サラがベスを抱いてあやしていた。
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レコードマニアのアイスは
選曲に余念がない。
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ベスの頭には
サラが工作したツノが生えている。
一角獣みたいでしょう。
お前は一角犬だね。
ベスも満更ではないようだ。
ペットならオセロもいたのに。
オセロは頭を引っ込めるとき、
ツノが邪魔になるから無理なのよ。
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その時、
ローズたち二人連れが訪ねてきた。
こんにちわ。
先日、郊外で名刺をいただいた者です。
メアリー=ケイトさんのお宅ですね、
ツノのあるペットを
見せていただきに来ました。
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ああようこそ、
とメアリー=ケイトは言った。
どうぞご覧ください。
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これがツノのあるもの。
なかなか優美なツノですねえ。
ローズ。
この紋章見せても、
全然反応
しないよ。
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うーん。
ルビーはしばらく考え込んでいたが、
伝承に間違いはないはず。
するとこのツノあるものは偽物。
ひょっとすると、これは罠かも。
と呟いた。
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はいそこまで。
と二人の背後に回り込んでいた
アイスが声を上げた、
素早くホルスターから拳銃を
引き抜いている。
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あなたたちは闇の傭兵組織ジゾックスの残党で、
あなたは元幹部のブラッディ・マリーでしょう。
あなたたちが伝承の魔王を呼び出そうと、
ツノあるものを探していたことは
とっくに調べがついていたの。
穴だらけになりたくないなら、
大人しくしてね。
う。偽物を使って騙したうえに
人を穴だらけにするなんて
悪役のいうことでしょ。
私はCGのアイスなのよ。
解説)
CGたちの計略はあっさり
うまく行ったようです。
Jul 14, 2023
広場であれこれ
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広場は今日も
そこそこの賑わい。
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毎日暑いですね。
あらかわいい。
入間ルイちゃんていうの。
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ルイはスイカを欲しがっている。
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トマトみんな沈んでいるね。
きっと実が締まってるんだよ。
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事務所が実験で立て込んでいるので、
エリスは町の広場が見たいという
ウェルズに付き合って
散歩がてら出掛けてきた。
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随分賑やかなところですね。
毎日歌声が絶えないのよ。
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ウェルズは直売店の前で
足を止めた。
おや、この実は。
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これはトロの実と言います。
見た目は大きな桃のようですが、
私が品種改良して作った
トロピカルなフルーツです。
味は。
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こくととろみがあるんだろう。
え、そうなんですが、
ご存じで?
うん。そっくり同じものを
別の世界で食べたことがあるよ。
そんなはずは。
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ベーカリーのテーブル席では、
やはり事務所に帰れずにいた翠が、
ルビーから声をかけられていた。
翠、暇だったら、ちょっと手を貸して。
サラたちの部屋に
アイスが警護に行ってるんだけど、
これ届けて欲しいの。
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そろそろジゾックスの残党が現れるはず。
今おとり作戦を遂行中でなので、
あなたも用心してね。
リボルバーも必要なんですか。
相手が相手だからね。
解説)
話がいろいろですが
それぞれに進んでいます。
Jul 13, 2023
朝のひととき そのさん

それって重くないの?
けっこう重いし視界も制限されます。
ダメじゃないの。
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ああ、気持ちいい。
思わず、ウォータ。
って叫びたくなる気分。
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ツナはガレージからバイクに乗って出てきた。
今日は東のエリアに屑拾いに行くよ。
東のエリアは瓦礫の広がる未調査地域なので、
運よく壊れたシェルターが見つかれば、
貴重な食料や資材が手に入る可能性もあるの。
ツナ缶あるといいね。
とバンクが言った。

危険な肉食の生物がいる可能性も。
そこで私が必要なんだ。
だからサイドカーには乗れないから、
後部座席に乗ってね。
とコーダが言った。

生存者が見つかるといいんだけど。
視界が静止して一瞬モノトーンになった。
ツナの声はよく聞こえている。
これ、何か法則性があるのかしら。
とレイチェルは思った。

あ、ツナ。
言い忘れてたけど、
さっきラパスと交信していて、
過去から人が来てるって話したら、
ぜひ会いたいから遊びに来るって。
それと卵の殻の話をしたら、
自分もドラゴンの子供を見つけたので、
連れていくって言ってた。
私は今日は裏の畑にいます。
と言ってミトラはハッチを閉じ始めた。
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了解。さっそく作業モードね、
じゃあ、レイチェルさん
そろそろ出発しましょう。
ドロレスは?

初めての人には遠出は危険すぎる。
ドロレスさんは、
ここで、ゆっくりしてて。
よかったら射撃の練習したり、
近くを散歩したり自由にしててね。
ラバスが来たら、
話しでもしててくれると嬉しいわ。

散歩するなら、
わたしがエスコートしますよ。
と頭上から声が聞こえた。
ドロレスが見上げると
ヒゾッコが上空を大きく旋回しているのが見えた。
解説)
なんとなく慌ただしい
朝のひとときでした。
Jul 12, 2023
朝のひととき そのに

それは高性能のリボルバー。
昔、CGっていう国際組織の
戦闘員の標準的な装備品だった。
扱い方はわかる?
武器を携帯するなんて初めて。
しかしレイチェルは、
自分でも驚いたことに
手慣れた感じで、ベルトを装着していた。

とても初めてとは思えないわね。
さすが戦闘用アンドロイド。

これはヘルメット。
体のパーツは損壊しても取り替えが効くけど、
頭はガードしないとね。

私も扱い方全然知らないんですけど。
とようやく装着をすませたドロレスが言った。
あとで誰かに教えてもらって。
射撃の練習もした方がいいかなあ。

ヘルメットを被ると、
レイチェルは
ちょっとスーパーヒーローにでも
なった気がした。

この武器を使ってたCGっていう国際組織、
やっぱり戦争で全滅したんですか。
一人だけ生き残った、
ラパスっていう友達がいるわ。
ラパスは西のエリアにある、
壊れたシェルターを改造して住んでいるの。
一瞬のことだったが、
二人の視界がモノトーンになった。
しかし何事もなかったかのように、
ツナは、そろそろ外に出ましょう。
今日も楽しいクズ拾い。
と言った。

戸口の横の井戸には
いかめしい金属製の
器具が被せられていた。
これは濾過装置だよ。
とバンクが言った。

人間の飲料水と燃料用の水、
分離して必要成分を添加して、
生成する装置でもあるんだ。
起き抜けなので顔洗わせて。
と、ドロレスが言っている。

ツナはミトラと話し込んでいる。
どうやら昨夜ドーダが持ち帰った
卵の話をしているようだ。
その殻が固くてね。
防御用ヘルメットに使えるんじゃないかと、
ドーダたちと加工してたんだけど。

そこに、
ヘルメットが完成しそーだよ。
出来栄えはどーだ。
などと言いながら、
ソーダとドーダがやってきた。
解説)
続きます。
Jul 11, 2023
朝のひととき

ドロレスは深い眠りから
目を覚ました。
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かすかに、
自分が探偵事務所に戻っていて、
ミューたちにこの世界の報告をしている
ような場面を見た気がするけど、
それは事実なのか、ただの
夢なのか、よくわからなかった。
どちらにしても、
内容覚えてないんだから意味ないか。
とドロレスは思った。
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隣にいたはずのドーダは
いなくなっている。
お目覚めですかな。
とサイドカーの上の機関砲のようなものが言った。
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私はコーダ。
ツナが隣で待ってるよ。
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ドロレスが隣室に行くと、
ツナが上機嫌で笑いかけてきた。
おはよう。
よく眠れたようね。

ソーダが昨晩、北の森から、
トロの実を採ってきてくれたの。
これ、こくととろみがあって美味しいのよ。
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見かけは巨大な桃そっくりね。
品種改良して作られた果物らしいけど、
戦争の後で野生化しちゃって。
でも森でも滅多に見つからない貴重品なのよ。

その時、レイチェルが
入室してきた。
呼んでるって、
言われてきたんだけど。
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あ、そうそう。
ふたりに一応護身用の武器を
渡しておこうと思って。
解説)
続きは明日に。
Jul 10, 2023
広場界隈で

ベーカリー前の広場は
今日も賑わっていた。

レオが用意してもらった
音楽鑑賞用の椅子に座って歌を聴いている。
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久しぶりに
農家の人が直産品を並べている。
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このスイカ甘いね。
とうたが言っている。

なんて大きな桃。
そんな季節だっけ。
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これは、外見は桃にそっくりですが、
トロの実というんです。
うちで品種改良して生まれた果物で、
味にこくととろみがあるんですよ。
と岸芳樹はいった。
想像がつかないわ。
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ドルフィンの奥には
メメが連れてこられていた。
骸骨のお父さんやジェイソンも
一緒のようだ。
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ベス見なかった?
とマスターが訊いている。
あ、マスター言い忘れてましたが、
ちょっと事情があって、
ここでメメを預かることになったんです。
でもベスが怖がるといけないので
アイスがサラたちの部屋に連れて行きました。
しばらくペットの交換状態になります。
とスーザンが言った。
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僕たちもお世話になります。
とジェイソンが言った。
なんか腑に落ちない話ね。
最近アイスたち武装してるみたいだし、
またなにか起きてるのかな。
とマリアは思っている。
解説)
スイカのおいしい季節。
Jul 09, 2023
月の輝く夜に そのに
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私だんだん
自分がアンドロイドだってことを、
自覚しつつあるんだけど。
とレイチェルが言った。
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初めはみんな戸惑いますよ。
特に私のように、施設で目覚めたら
全身が機械の体になっていたりしたら。
その時は軍を恨んだりしましたが、
やがて順応していきます。
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命あっての物実ですからね。
とバンクが言った。
なんかそれっぽい慣用句知ってるのね。
そういえば、あなたの形、
ロボット研究所のアルバムで見たことがあるの。
あまり役に立たなかった警護用ロボットで、
随分前に生産中止になったはずだけど。
それで研究所の倉庫に
無傷で保管されていたんです。
ソーダやドーダも同じで、
二人とも初期型のロボット犬です。
でも古いのは見かけだけで、
内部構造は別物のように改良されていますよ。
駄洒落が好きなのもそのせいなのね。
きっとそーだと思います。
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その時レイチェルの視界がモノトーンになった。
瓦礫に覆われた地平線から何かが近づいてきたが、
輪郭も不鮮明でよくわからなかった。
まじかにきた時ようやく形が分かり始めた。
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それはリヤカーを曳いてきたソーダだった。
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大きな卵みたいね。
北のエリアの森の中で見つけました。
中身は空で孵化した後のようです。
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随分遠くまで行ったんだね。
あの森のあたりは巨大化した昆虫が多いので、
危険だってツナが言ってたよ。
とバンクが言った。
その代わり人間の食用になる植物も多いんだ。
ツナの好きなトロの実もなってるし。
ドロレスにご馳走しようと思って採集に行ったら、
この卵を見つけたんだよ。
あの森を抜けると瓦礫の広野がある。
とミトラが言った。
ミトラは行ったことがあるの?
うん。一度だけね。
ツナと二人で生存者を探しに。
こちら側はナーガラだらけだけれど、
そこにはトカゲやカメなどもいて、
ずっと多様性がある。
この卵を産んだのは、
そこに棲息する爬虫類かもしれない。
森で巨大化したっていうこと?
この殻硬そうだね、何かに使えるかな。
これから成分分析してみよう。
どんな生き物の卵なのかわかるかもしれない。
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卵にはぽっかりとした穴が空いている。
レイチェルは、以前、
町で人づてに聞いたことがある、
ドラゴンの卵や、
迷いの森の卵のことを思い出していた。
北のエリアの森や、その向こうの広野など、
この世界、まだまだ知らないことばかり。
というより、何かが起きて、
その都度世界が拡張されてるのかもしれない。
システムのやりそうなことだわ。
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二人はミトラが鉄球で卵の殻を叩き割って、
破片を倉庫に運び入れる作業を見ている。
ツナに報告したほうがいいのかな。
変な時間に起こすとすごく不機嫌になるから、
朝になってからにしましょう。
とバンクが言った。
ツナって私と似てる、と一瞬レイチェルは思った。
今はもう違うけど。
解説)
また日を跨いで続く予定です。
Jul 08, 2023
月の輝く夜に
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夜が更けて、
レイチェルはソファに
身を預けていた。
さっぱり眠くならない。
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ツナはすやすや
寝息を立てている。
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空腹感も全く覚えない。
アドロイドになるのも
悪くはないかも。
レイチェルは、子供の頃、
ロボットのスーパーヒーローに憧れて、
ロボット学者になったのを思い出した。
あの夢をシステムが読み取って
実現したのかな。
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レイチェルさん。
今夜はフルムーンですよ。
と部屋に入ってきたバンクが言った。
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二人は外に出た。
あなたたちも眠らないんでしょう。
夜は何してるの。
それぞれのメンテナンスや
回収したパーツの分別作業などです。
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今夜は綺麗な満月で、
夜でも遠目がきくわね。
あれ、あそこに。
ああ。
ミトラは、見張を兼ねて、
屋外でああしているのが好きなんですよ。
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ミトラさん。
こんばんわ。
ブーンという低い音が聞こえている。

頭部のハッチが開くと、
ミトラの顔が現れた。
お邪魔だったかな。
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あ、レイチェルさん、こんばんわ。
ちょっと瞑想中でしたが、
時間はいくらでもありますから。
とミトラは言った。
解説)
次回に続きます。
Jul 07, 2023
サラのアイデア
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サラたちの部屋には、
アイスがメメの警護に来ていた。
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ケイはビールのラベルを
真剣に読み取ろうとしている。
「ドリームビア」って知ってる?
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アイスがいてくれるのは
安心で嬉しいけど、
メメが二人連れに見つかるって、
そんなに重大なことなの?
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うん。
かってCGの掃討作戦で滅ぼされた
闇の組織ジゾックスの幹部は、
魔王メイヴを秘密裏に信仰していた。
彼らが組織のシンボルにしていた紋章があって、
「夢見の水の流れる土地に住む
ツノあるものが、紋章を見ると、
魔王メイヴが目覚める」
っていう伝承があったらしいんだ。
どこまで本当かわからないけどね。
それでジゾックスの残党の彼女たちは、
紋章をメメに見せようとしている。

アイスが肩からホルスター
下げてるの初めて見るわ。
野暮だけど仕事だからね。

今思いついたんだけどさ。
その人たちが知っているのは、
ここにツノのあるペットがいるっていうことだけで、
二人はまだメメを見たことがないんでしょう。
だったら、偽物にすり替えておけばいいんじゃない。
何も起きなければ、きっと諦めるよ。

ああ、それはいい作戦かも。
すぐ諦めるとは思えないけど、
万が一っていうこともあるからね。
でもメメの身代わりの動物はどうするの?

その頃、ジェニーたちの部屋では。
たまきが、
ねえ、その貝殻どうしたの?
と聞かれていた。

この前サラたちの部屋に風鈴を届けにいったとき、
サラが貸してくれたの。
幽霊船長の貝殻に耳を当てて眠ると、
潮騒の音が聞こえて海の夢が見られるんだけど、
この貝はサラが夢の中の泉で拾った貝殻で、
せせらぎの音が聞こえるらしい。
どんな夢が見られるのかわからないって。

すごいね。
最初に誰が使うか、
じゃんけんで決めようよ。
え!
私たちはチョキが苦手でしょ。
じゃあ、あみだにしようよ。
解説)
またあちこちで
エピソードらしきものが。
Jul 06, 2023
ドロレスたちの体験 そのよん
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お、美味しい。
このぷりぷりした食感の
イカみたいなのはなあに。
それはナーガラの。
う。
でもいけるわ。

レイチェルはなぜか
空腹感を全く感じなかった。
やっぱり私はアンドロイドなのかな。
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レイチェルさんは
お水を補給するといいわよ。
水がエネルギー源になる構造は、
戦争前からずっと変わっていないはず。
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ああ、そろそろ
寝る支度しますね。
ドロレスさんには
ガレージで休んでもらうことになる。
私のぬいぐるみと毛布を使って。
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ドロレスはガレージに案内された。
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大きなケースの中で
植物が育てられている。
それも壊れたシェルターから、
運んできて使ってるの。
屋外でも野菜は育てられるけれど、
そのケースの中のものは、
栄養豊富ですごく生育が早いの。
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眠れなかったら、
隣のドーダやコーダが、
話し相手になってくれるよ。
彼らも待機モードになってるから、
そのときは声をかけてね。
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ツナが部屋を出ていくと、
ドロレスはベッドに潜り込んでみた。
全身の力が抜けて安らぐ感じは、
この世界にきてから初めて味あうものだった。
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ドロレスは次第に眠気ももよおしてきた。
人間って面倒なんだなあ。
外界だけじゃなくて、
食べたり寝たり、自分の体とも
折り合いをつけながら生きているんだ。
もし眠って仮想世界の中で夢を見たら、
どんな感じなんだろう。
どんどん話が現実離れしていくなあ。
などと思っているうちに
ドロレスは眠りに落ちていった。
解説)
植物入りのケースは、
トマトの四個入りパックを利用しています。
Jul 05, 2023
ドロレスたちの体験 そのさん
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ドロレスたちは、
ツナの部屋を見せてもらっている。
マトリックスの映画ポスターが貼ってある。
ツナは仮想現実なんて気にしないって
言ってたけど。
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鉢植えや作業用手袋、
銃器類や無線機のようなものも。
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これ随分古い映画ポスターね。
壊れたシェルターの壁から、
剥がしてきたんです。
とバンクが言った。
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これ今の地球なの?
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砂漠化が進んでいるの。
ほとんどが時空の歪み状態だから、
行ける範囲は少ないんだけどね。
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それより
お腹空いたでしょう。
何か作るから食事にしましょう。
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壊れたシェルターから集めてきた
缶詰が結構あるのよ。
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ツナって好き?
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ツナはツナだから
ツナ缶が大好きなんだ。
とバンクが言った。
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さっと炒め合わせただけだけど。
ああ、いい香り。
それにこの空腹感。
人間でいるってこんな感じなのね。
とドロレスは思った。
解説)
ロボットだった時のドロレスは
人間同様簡単な食事ができる構造に
改造されていましたが、
それは形だけのことだったのでした。
続きは次回に。
Jul 04, 2023
ペンギンの前で
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ペンギン前の空き地では、
みんなが思い思いにオレンジを
手にしていた。
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スパッと切って食べるのが、
美味しいんだよね。
見た目も綺麗だし。
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ゆっくり丁寧に皮を剥いて
食べるのもいいわよ。
手仕事してる感じがして。
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ところで、ウェルズは、
時間管理部だったよね。
その仕事がらみで遊びにきたの?
うん、最近のことだけど、
ここで生まれた異世界に、
時空の歪みが生じているようなんだ。
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町には結構ユニークな人もいるみたいだし、
魔族や精霊にも事欠かないから、
時々異世界が生まれるのはわかるけど、
時空の歪みというと、
そこでタイムマシンのようなものが、
使われたっていうこと?
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なんか私には縁のなさそうな話ね。
でも最近のことって言うと、
ミューたちのはじめた実験と関係あるのかしら。
とエリスは思った。
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それが、人の想像力や魔族の魔法じゃなくて、
人工的ななシステムが生み出した世界で
生じているらしいからややこしい。
あれなんて言ったかな。
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それって仮想現実体験装置みたいなものなの?
とエリスが言った。
そうそう、まさにそれですよ。
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管理局としては、
基本は当事者にお任せなんだけど、
時空の歪みはこの世界に影響を与える可能性もある。
この町は管理局のお膝元だからね。
局長がちょっと気にしちゃって、
休暇で町に遊びに行くなら、
ついでに様子を見て対処してくるようにって。
それで時間管理部のお出ましってわけね。
僕の普段の仕事はタイムトラベラーの摘発なんだけど。
さらにややこしくなるから、
その話は絶対しないでね。
解説)
皮剥き状態と半分皮付き状態のオレンジは、
バラ売りで購入したものです。
ネットで見ると、スイーツデコパーツ
として紹介されていました。
Jul 03, 2023
ドロレスたちの体験 そのに
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ヒゾッコは耳をたてて顔をあげると、
ドロレスに、修理してくれてありがとう。
と言った。
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おかげさまで、
このように。
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飛び立ったヒゾッコは
部屋の中を器用に旋回した。
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壁の桟にぶら下がって
少し揺れている。
大丈夫なんですか?
制御能力が高いから。
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あなたたち、最終戦争前の
過去の世界から来たんでしょう。
そういう予言をしてくれる、
アンと呼んでる記録装置があるの。
大抵のことはアンの予言通りに起きるから。
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アンって、あのアンと同じ名前だわ。
それより、最終戦争って、いったい何が。
ああ、もちろん進化した機械と人類の戦争よ。
その結果は共倒れで、使用された最終兵器のせいで、
世界には深刻な時空の歪みが生じてしまった。
奇跡的に歪みから免れた空間に残された土地で、
生き残った私たちは共存して暮らしているの。
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あなたたちが来た理由は知らないけど、
最近、悪いことが沢山起きているから、
そのことに関係があるんじゃないかな。
ドロレスさんは、片方の翼を失ったヒゾッコを
修理してくれたし、
レイチェルさんは、ミトラの故障を指摘してくれた。
そういう手助けをしてくれるんだと、
勝手に思っているの。
もちろん、誰の助けがなくても、
私たちはできるだけのことをするだけなんだけど。
あなたは、この世界が仮想空間だっていうことは
知ってるの?
とレイチェルは思わず言ってみた。
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そういう言い伝えについては、
アンから一度だけ聞いたことがある。
だとしても、やるべきことに何も変わりはないのよ。
現実が仮想空間かもしれなくても、
与えられた世界の中でしか生きられないでしょう。
それは過去でもそうじゃないの?
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このツナっていう子は、
この仮想世界の中で生じているNPCだから、
元々帰るべき現実がないのね。
でもそんな単純なことかしら。
とレイチェルは思った。
ドロレスは、また別の複雑な思いに囚われていた。
かって自分が逃亡して孤独感に苛まれていた頃、
こんなふうに自分を生んだ人類を憎んで、
仲間と協力していつか人類を駆逐しようと
望んでいたことを、思い出したのだった。
研究所で開発されたというアンの噂を聞いて、
あの町に行ったのもそのためだった。
あれは当時の私の夢だった。
ここは、その夢の結果の世界っていうことなの?
解説)
みんなの思いはそれぞれ
のようです。
Jul 02, 2023
ドロレスたちの体験
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レイチェルたちは
無事にバーボンハウスに帰り着いた。
バンクが、
ドロレスさんがお持ちかねですよ、
と言っている。
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人間に会えるなんて久しぶり。
私がツナです。
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わー。かっこいいボディスーツですね。
レイチェルはバンクに
挨拶されている。
どうぞよろしく。
この型のロボット、どこかで見たことがある。
とレイチェルは思いかえしていた。
あれはロボット研究所にあった古いアルバムだ。
私が研究所に勤め始める前、それどころか、
所長も今のバトラー博士の前任者の頃に、
開発された警護ロボットだったはずだ。
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ソーダとドーダもレイチェルに
挨拶している。
この型のロボット犬たちも研究所で開発された
初期タイプのものとそっくりだ。
けれどその頃にはまだ会話能力のある
人工知能は組み込まれていなかったはず。
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もう日が暮れるし、家に入りましょう。
ドアにはロックが。
あ、そうそう。
外でお待たせしてごめんなさいね。
用心のためなの。
あなたたちも認証設定しておくから、
これからは出入り自由になるはずです。
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室内はドロレスがバーボンハウスという
名前から想像していたのと違って、
割とこぎれいに整頓された普通の小部屋だった。
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今、椅子を用意するからね。
とツナは上着を脱ぎながら言っている。
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バーボンハウスって?
ああ、昔ここにそういう名前の酒場があったの。
戦争で跡形もなく消えちゃったけど、
その場所に建てた掘立て小屋だから、
思い出を忘れないために、みんなそう呼んでる。
みんなって?
私とミトラと他のロボットたちね。
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ドロレスの声に反応したのか、
机の上の機械が低いブーンという
音を立てた。
よく見るとそれは、ヒゾッコだった。
解説)
レイチェルの記憶の中のロボットたち。
バンクは、
2009年6月28日「夢見る機械 そのいち」
にあまり役に立たない警護ロボットとして紹介されています。
さらに初出は、
ロボット研究所が初めて登場した、
2008年8月22日「おばあちゃんの夢 番外編そのに」
にも出ています。そこでは、
ソーダは開発中のロボット犬として出てきます。
Jul 01, 2023
6月のコンテストの発表
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月初めは前月のコスプレコンテストの
結果発表の日。
しかし今回の審査は難航していた。
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6月は海賊ブームの反動のせいか、
新規の応募者がほとんどいなかったのよね。
みんな手軽なバンダナで、
再登録しちゃって。
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観光客の人だけど、
ちょっと有名人に似てたから、
僕が声をかけて登録してもらった人がいるんだ。
こうなったたら、その人にしない?
とボニーが言った。
そうしよう、そうしよう。
選考に困っていたルビーたちは賛同した。
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みなさん。
6月のコスプレコンテストの優勝者を
発表します。
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厳正な審査の結果、
優勝したのは映画俳優レオナルド・ディカプリオの
普段着のコスプレをしたレオさんです。
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その時、レオは、
ドラコや旅芸人たちと音楽の話をしていた。
あのダーダーと伸ばす部分のビブラートが。
あれ、今あなたの名前呼ばれましたよ。
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レオは一瞬固まっている。
すごい。レオおめでと、と
うたが言った。
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レオはうたとキャサリンから
万雷の拍手を浴びている。
おまけにそっくりさん特別賞も授与します。
とルビーが言った。
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似てるなんて言われたことないんですが、
本当にいいんですか。
ええもちろん。
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ドルフィンのマスターはジョー軍曹に、
倉庫から出してきた古い椅子の、
座り心地を試してもらっている。
ゆっくり腰掛けて音楽を聴きたいという、
要望がありまして。
なかなかいい感じですよ。
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隣では、子供たちが、
大きなアオガエルを見つけて驚いていた。
どこからきたのかな?
解説)
もう7月。
早くも折り返しですね。