Jul 30, 2023
仮想世界で そのろく
そうそう、これも忘れないうちに。
と言いながらナディアはバッグから
黒っぽいベストを取り出した。
それはCGの装備品。
背中には特殊な運動補助装置が縫い込んである。
軽量だけど防弾機能もあるから
人間に使ってもらえればと思って持ってきたの。
ありがとう。
CGって言うと、ナディアさんは、
CGの唯一の生き残りだって聞いたけど。
そういうことになるわね。
でもあの戦争のことはあまり話したくないの。
それよりあなたたちのことが聞きたいわ。
あなたはCGのことも知ってるみたいだし、
過去から来たと言っても、それほど遠い過去じゃない。
もしかすると私の母と同世代かもしれない。
そういうとナディアは、
バッグの中をもぞもぞと探し始めた。
ナディアがバッグから取り出して
ドロレスに手渡したのは
一枚の写真だった。
この人、あなたに似てるわね。
母なの。マヤ・ラパス。
母は若い頃、CGのメンバーだった。
私がCGになったのも母の影響よ。
同時代を生きていたなら、
どこかで見かけたりしたことが。
ドロレスは写真を眺めて、
じっと思い返していた。
ロボットだった時の記憶は
この仮想世界に来ても維持されているようで、
やがてベーカリー前の広場で
何度か見かけたことがあったのを思い出した。
この人、私の住んでた町の広場で見たことがある。
町の住民じゃなくて、観光客だったと思うけど。
そうそう。
町の広場ではいつも
大道芸人たちが歌を歌っていて、
この人が投げ銭をあげていたの思い出した。
優しい人なんだなって思った。
その町の広場って、
アンっていうロボットやドラゴンの子供がいて、
ちょっとした観光名所だった。
一時期、毎月コスプレのコンテストが開かれてたでしょう。
ええ、同じ町に間違いはないわ。
とドロレスは言った。
母はね。そのコンテストで優勝したことがあったの。
とナディアは言った。
それは何かの勘違いじゃない?
優勝した人の中にはいないはずよ。
とドロレスは言った。
やっぱりここはシステムの作った仮想世界だわ。
母から直接聞いたので、日付も覚えてるわ。
2023年の7月のコンテストよ。
え。そうなの。
と、少し考えてからドロレスは言った。
毎月のコンテストの優勝者の発表は
翌月の初めだったはず。
だから、過去の私にとっては、
その出来事はまだ起きていない。
未来に起きる出来事なのね。
解説)
ナディアの母マヤ・ラパスは
昨年2021年のハロウィンの頃から
町の広場で観光客として時々顔を出していて、
過去の画像を探すと、いくつか
広場での情景の背景に写り込んでいます。
今回はそのうち2枚を再掲しました。
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