Jan 24, 2025
バー・エデン そのに
そこに
先ほど森の見えるカウンター席に座っていた
男性がやってきた。
やあミラ、髪型変えたのかい。
え、それって人違いよ。
私はミラの妹のカコ。
姉とは双子の姉妹なの。
ななんと、それは失礼しました。
僕は管理局の時間管理部のウェルズと言います。
ミラとは長年の付き合いで、
情報管理部の彼女がここにくるなんて、
珍しいなあと思い、
つい気安く声をかけてしまったんです。
それにしてもよく似てるなあ。
ウェルズはカコに勧められて席についた。
姉とは今日会ってきたばかりなの。
そこのサラさんに案内してもらって。
そうですか。
あの惑星にはレプテュリアンたちの円盤で?
いえ。彼らの古い転送装置を使ってね。
なるほど。あれを使ったんですか。
でもミラたちが住んでいるのは
確か管理局の本部のある領域の至近の町。
その近くに転送装置が残っていましたっけ。
そうじゃなくて。
とサラが口を挟んだ。
私たちが使った装置があるのはアフリカ。
そこから町までは魔法の扉で移動したのよ。
なるほど。そういうわけでしたか。
実はあの町では、以前遭難したロボットたちが、
帰還用に作った転送装置が、人間に贈られたことがあって、
その転送装置が盗まれるという事件があったんですよ。
その時、盗まれた転送装置はレプリカにすり替えて
事なきを得たんですが、それでつい
装置のことが気になったんです。
しかしあの星の魔族が作るという魔法の扉が
普通に移動手段として使われてるとなると、
結構厄介だなあ。
あら、管理局の時間管理部って
普通の転送とは関係ないんじゃないの。
あなた方の専門はタイムパトロールでしょう。
いやいや、関係はあるんですよ。
あれが逃走に使われるとまず追跡が困難なんです。
それに魔法の扉がもし時間の扉のようなものに進化したら
この宇宙の時間の秩序は全面的に乱れてしまう。
今でもタイムマシンを使った犯罪については、
半ば野放し状態なのが実情ですが。
管理局も大変そうね。そういえば、最近
あの星では魔術師が増えて、魔法も派手になったって
姉が言ってわ。
私には魔法のことは全然分からないけど、
確かにフミコやアイスやヴィヴィアンを見てると、
なんでもできちゃう気がするわね。
とサラが言った。
あ、サラ、それみんな食べちゃったの。
ええ、癖になるお味ね。
じゃあ、僕はそろそろ仕事に戻ります。
と言って、ウェルズが席を立った後、
ウェイターがおかわりを持ってきた。
ねえ、ところでカコ、
あなたは、ここの常連みたいだし、
レプテュリアンとも親しいんでしょ。
どこか遠くの星から、はるばる地球に、
観光に来ただけとは思えないんだけど。
鋭い質問ね。
でも観光に来たのも、ルースの調査に
付き合ってきたのもみんな本当のことよ。
ただ話していなかったこともある。
あなたがペンギン前で席を外していた時に、
姉たちには話したんだけど、
私は管理局からのスカウトを断った後、
宇宙連合にスカウトされて就職したの。
というか、宇宙連合に加入している星からは、
親善大使のような形で何人か選抜されるわけ。
微妙に政治的なことだけど、
連合にしてみれば人質みたいなものかもね。
その代わり連合の友好関係の象徴だから、
特権的な身分が保証される。
仕事は他の加盟文明との交流の促進。
基本、異星人と楽しく交流していればいいのよ。
私の担当がレプテュリアンたちの文明になってね。
それでここにいるっていうわけ。
ルースや、さっき会ったピピも私と同じ身分よ。
友好親善大使みたいなものだから、VIP待遇。
なるほどねー。
そんな大使に選ばれたら楽しそうね。
あなたの星の文明は宇宙連合に加入してないし、
加入できる文明段階に達する前に
滅びるんじゃないかとも思われてる。
レプテュリアンたちが保護観察している状態なの。
あ、それはレプテュリアンたちの言い分だけどね。
そんなこと言ってるの?
聞いたことなかったわ。
レプテュリアンたちが連合に加入する時、
あなたたちの星の扱いがネックの一つだったのよ。
彼らは今でも月の裏側や南極に地下都市を作っている。
それが異なる惑星文明への植民計画や、
侵略行為だと見做されるかどうかで、
かなり激しい議論があったんだけど、
人間や魔族と直接接触しないという内部規約を作り上げて、
なんとか加入を認められた。
ふーん。
複雑な事情なのね。
そこにリザードがやってきた。
カコ、もう帰ってきたのかい。
ホテルの泊まり心地はどうだった?
あ、君はサラだったね。
あらリザード。
噂をすればなんとやら、
って、ことわざがあったわね。
噂をすればトカゲだっけ。
それは違うだろう。
解説)
続きます。
ウェルズの話していた
転送装置盗難事件の話は、
2023年10月24日「盗まれた転送装置」
から始まっています。
2023年10月27日「盗まれた転送装置 そのよん」
で盗難事件は決着しますが、
犯人であるブラウンが仮想世界に逃げて、
追って行ったウェルズと対面する
2023年11月17日「ブラウンの回想 そのさん」
までで事件が最終決着しています。
仮想現実体験装置の世界の別の話や、
ブラウン(ウェルズの過去の分身)が
登場するのでややこしいのはいつもの通り。