Feb 21, 2013
谷口謙氏の詩業
原稿依頼を受けて正月過ぎから23冊ある谷口謙さんの詩集のほとんどと、蕪村研究書2冊を読み通した。谷口さんとは2002年度『詩学』新人賞を受けられて以来だから、10年を越えるご厚誼をいただいている。詩は平明闊達、京丹後市大宮町の名誉町民でいらっしゃるお医者さんである。詩もよかったが、今回かなり大部な蕪村研究を忍耐を持って読み込んで、かなり手ごたえがあった。自分にとても栄養になった。原稿は8分どおり書けたつもりだが、それに伴う収穫の豊かさにびっくりしている。その1つが、上野の博物館で開催中の『王義之展』の展示の中ほどで突如、蕪村の描く『蘭亭曲水図屏風』に出くわしたことで、あとでパンフレットを見たら、この屏風の展示期間は後期のみで、もし早いうちに見に行っていたら、出会わなかっただろうとわかって、これまたびっくりした。《呼ばれて見に行った》気がする。蕪村の筆致はきわめて丁寧で古典的。この古代中国の43人の詩人たちを当時の衣装でイメージしてきちんと描いている。小川の傍に寝そべるどの詩人も明るい寛いだ表情をしている。楽しそうだな、とつぶやきも出るほど。その後、自宅に大きくて重い和綴じの『蕪村画集』があったのを思い出した。これも先年母がなくなり実家が解けた時にたまたまわたくしの手元に来たものである。谷口さんによれば、「蕪村は俳句は持ち出しで、画家としてのほうが有名だった」。ともかく蕪村という人はきわめて多面体、複雑な人格の人だったようだ。
Feb 07, 2013
ジャルスキーのCD「Opium」を聴く
LP,CD以後に音と同時に映像を見ることが出来るようになったのは時代の恩恵だろう。YouTubeで録音の実況を断片的ながらのぞくことができるので、カメラの意図を差っ引いてもより身近に音楽家の体温を感じることができる。あるいは演奏中の駆け引きのようなものも垣間見られて面白い。ジャルスキーの歌うメロディーフランセーズではピアノのジェローム・デュクロの表情が楽しい。リサイタルに出かけて生で聞いてもこれだけの接近した映像は見ることはできないので、伴奏者が歌い手の声をいかに担っているかが直に伝わってくる。この歌手の特徴は前奏が響きだすやいなや、ただちに曲中に没頭していくことで、どんな小曲の場合も、大ホールでのグランドオペラのアリアの場合も変らない。自分の歌がこれらの同伴者たちの伴奏によってはじめて成り立っていることを本能的に知っているという素振りだ。それがフォーレのピエ・ジェスのソロを謙譲な美しさに満たし、もうこれ以上のこの曲を聴く必要はない、至上のものとまで思わせる。そしてオーケストラのメンバーも伴奏しながら一人一人魂を奪われているような様子をしている。伸びやかで華やか、そして深い息接ぎ。曲に魂を吹き込むという、曲と自分が融合していることがこれほどはっきり見て取れる歌手はめずらしい。CDで音だけ聞いていても、ユーチューブで見た演奏にまつわる映像が見えていて、いっそうライブな音楽として受け取ることができる。
Feb 01, 2013
現代詩花椿賞30回記念アンソロジーの刊行
発行日は昨年12月6日の日付けですが、送付を受け、開いてみることが出来たのは今年に入ってからでした。亡くなった方は除いて24人の受賞詩人たちの昨年7月末時点での書き下ろし作品1篇からスタートしているのが魅力です。受賞作以後の作品活動が気にかかるからです。化粧品メーカー資生堂のPR誌である『花椿』はファッション、デザイン面が先駆的で、このアンソロジーの装丁にもその迫力を見ることが出来ます。よい1冊だなと感じるのはそのおかげも大きいでしょう。私の場合で云えば、ますます自己に徹すること以外に方法はないと考えています。言葉だけによる自己を存在感あるものとしてどうやって呈示できるか、勝負どころだと思っています。