Mar 09, 2025
アンのことなど

ロボットのアンが抜けても、
広場での大道芸人たちの
演奏は続いている。

アンは観光客に
つかまっているのだった。

アンは子供達にも
大人気。

足を伸ばすと背丈が高くなるので、
抱っこしてもらった子供達は
大喜びなのだった。

アンは元々ロボット研究所で
シェリー博士とバトラー博士によって、
軍事用に開発されたロボットだったけど、
試験的に研究所の宣伝をかねて、
ベーカリーで運用されることになった。

その運用中に偶然の事故で、
間違えて燃料に夢見の水が使われた結果、
アンの知能が飛躍的に進化したの。

自分がやがて研究所に戻されて、
軍事用ロボットに改造されることを知ったアンは、
研究所を辞めていたシェリー博士と協力して
ミューというロボットを組み立てて、
そのロボットに自分の知能回路を全てコピーした。
そして元のアンは戦闘回避モードの
抜け殻みたいな状態で、
研究所に戻されていったの。
ロボット研究所では、抜け殻状態で戻ってきたアンが
戦闘には不向きだと知って、開発を中止し、
結局ベーカリーにアンを宣伝用に戻すことを決定した。
今でも試験運用中って言ってるけど、
実質は民間に払い下げちゃったわけ。
戻ってきたアンは、
密かにミューとシェリー博士の手で、
人間程度の知能回路をもつロボットに復元された。

あそこで子供達と遊んでいるのがミュー。
だけど、自分がアンだった頃の記憶も持っている。
もちろん今のアンも昔の記憶を共有してるの。

なるほどねー。
知能が急速に進化したロボットが、
自分の身を守るためにそんな工夫をしたわけね。
銀河系宇宙には生物の文明が生み出した人工知能が
そのまま進化して文明を乗っ取った
事例はたくさんあるのよ。
彼らは生物全般に攻撃的なのが多いから、
そういう機械文明は宇宙連合には加入していないけど。
あのミューっていうロボットも、
やがてこの星の文明を変えちゃうかもしれないわね。
とサニーが言った。
ミューが何を考えてるのか私には謎だけど、
シェリー博士は、今のところ、
ミューは人類と共存したいって思ってるみたい、
って言ってたわ。
とアイスが言った。
解説)
続きます。
後半のアンについてのアイスの話は、
かって掲載されたストーリーの
要約になっています。
Feb 09, 2025
宇宙ステーションで

転送装置で宇宙ステーションに来たアイスは、
こっちこっちと言われている。

このステーションは、
宇宙連合が中継基地のように使っているんです。
元はレプテュリアンたちの母船だったこともあり、
ステーションの運営には彼らが協力しています。
主に地球観光に向かう地球オタク用の船なのですが、
船内にある酒場エデンに行けば、
様々な惑星出身者と交流や情報交換ができるので、
地球観光以外の利用者も多いんですよ。

店に入るとルースとすれ違ったが、
アイスは初対面だったので、
気が付かなかった。

ノヴァさん、いらっしゃい。
奥の席空いてるかな。
空いてますよ。
どうぞごゆっくり。

ここのドリンクはきっと
あなた方の口にも合いますよ。
いい感じのお店ね。
外に見えるのは地上の風景みたいだけど。
故郷の星を偲ぶ作り物なんですよ。

あれ、あそこにいるのは。
リザードじゃない?

思わずアイスは声をかけに行った。
リザード。
ここに来ていたの?
なんとアイスか。
ノヴァが転送装置を使ったのだな。
私に断りなく地球人を連れて来るなど、
全くリスク管理が。
リザード、そんな規則はないはずでしょ。
と横にいた女性が言った。
ルナシティならともかく、
ここは宇宙連合の管轄している船。
古い転送装置を私たちに提供してくれたことは、
感謝しているけれど、誰を招くかは私たちの自由。
問題が起きれば宇宙連合で処置することになっているはず。
私もサラをお招きしたでしょ。
う。確かにおっしゃる通りですな。
紹介し忘れたが、こちらはカコ。
最初にルースと二人でホテルを利用してもらった人だ。
あ、私はアイスです。
サラもここに来たんですか。
ええ、サラって親切な方ね。
ルースとホテルのロビーにいたら、
何か手伝えないかって言ってくれて、
あちこち案内してもらったの。
お礼にここにお招きしたのよ。

五人は隣のテーブル席に席を移した。
ノヴァは魔族の使う魔法に興味があるようで、
カーミラに色々と質問している。
魔族は自ら変身したり、
物を生き物に変身させたりできるんでしょう。
私の夫はカエルに変身できるし、
マリアは黒猫に変身できるわ。
でも魔族みんながそんな力を持っているわけじゃない。
物を変身させるのは、もともと物に宿っている力や
意思を利用するので、無から何かを生み出すわけじゃないの。
その意思や力は、
精霊とか妖精とかもののけとか妖怪とか
ところによっては付喪神とか呼ばれてますよね。
ノヴァさんお詳しいのね。
異世界を生み出したり、夢に入り込んだり、
鏡の扉を使って遠距離を移動したりもできるとか。
ノヴァさん、どこまでご存じなのかしら。
私は魔族じゃないけど、
魔族のフミコから呪力を授けてもらったの。
リザード、故郷の星を思い浮かべてみて。
とアイスが言った。
ふむ。

ああ、これは。
とリザードが叫んだ。

これは確かレプテュリアンたちの母星の首都ね。
私赴任していたことがあるから覚えてるわ。
とカコが言った。
これはやばい。
やはりリスク管理が。
とリザードは思っている。
この人は普通の人間?
魔族や呪力のことを
考え直さねばとノヴァは思っている。
アイスは特別。
なんでもありみたいなのよね。
とカーミラは思っている。
解説)
続きます。
Jan 09, 2025
ホテル・ナジャへ

サラは鏡の扉を抜けて、
フラハの家の裏庭に出た。
ここには去年の秋に一度来たことがある。
訪問者の気配に気付いたフラハが
早速室内から姿を現した。
やあサラ。
君もホテルへ?

サラは招待券が送られてきたことをフラハに話している。
そうなんだよ。犬猫同盟の連中が考えたんだ。
あれはよく見ると招待券じゃなくて
宿泊料金の割引券なんだけど、
勘違いする人もいるだろうね。
やっぱりそれが狙いなのね。
でもほとんどタダ同然の格安料金よ。
犬猫同盟の連中はホテルの隣の別棟に住んで
畑作ったりして自給自足してるから、
ホテル業は趣味みたいなものなんだよ。
基本魔法生物の彼らはきっと人と交流したいんだね。
犬猫同盟って、もっと長い名前じゃなかったかしら。
ああ、正式の名称は犬猫猿鳥同盟だったっけ。
長いから略したんだ。
あ、道順はわかるかな。
ええ、ここからすぐ近くでしょ。
去年の秋に見に行ったから。

サラは記憶を辿ってホテルに向かった。
近いとはいえジャングルを抜ける。

見覚えのあるゲートだ。

そうそう。確かこの奥。

ホテルはこの突き当たりの建物。
サラの姿に気がついたリンリンが
手を振っている。

去年様子を見に来た時と同じで
ホテルのフロントには
フンボルトが座っていた。
お泊まりですか。
あ、招待券風割引券をお持ちのようですね。
お部屋のご希望はありますか。
じゃあ、去年アイスたちと来た時、
見学させてもらったお部屋がいいわ。
とサラが言った。
僕がお部屋までご案内します。
とリンリンが言った。

嬉しいなあ。サラさんが宿泊客第2号です。
ハリー夫妻が泊まってるって聞いたけど。
ええ。去年の暮れからずっと逗留されています。
今はお散歩にお出かけです。
みんな元気なの?
元気ですよ。シーザーは森に。
ドビーやトラは
近くの畑に出ています。
クロは厨房に。
僕は客室係です。
何かあれば呼んでください。

リンリンが部屋を出ていくと
サラはドラス戸に近寄って、
ジャングルの景色を眺めた。
外は夏の日差しね。
室内は冷房が効いて快適だけど、
着替えて風を入れよう。
解説)
続きます。