Jul 20, 2024

フミコの帰郷 そのろく

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それにしても、
アイスが早く戻ってきたので驚いたよ。
ジャングルだけでも大変なのに、
そのうえ砂漠を超えて、
飛行機ではるばる海を越えて、
アイスの住む国まで、
急いでも片道で2、3日はかかるだろう。
とクラウドが言った。

フミコの魔法で一瞬で来たのよ。

そんなことが可能なの?

私にはわかるぞ。
リンリンから聞いたことがある。
古代の魔族は魔法で鏡の扉を出現させて
自由に遠方と行き来していたという。
グリューンも使えると言っていた。
とハンスが言った。

そういうことなのよ。
私の住む町にもフラハのような魔族の人たちがいてね。
その一家の娘さんがフミコを蘇生してくれたうえに、
一家の住む魔術劇場っていう館に
フミコは同居させてもらえることになったの。
私は故郷の様子が知りたいというフミコに便乗して、
蘇生が無事に成功したことを
みんなにお知らせしたくて来たんだけど、
あとはマークに会って帰るつもり。
とアイスが言った。


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フミコの蘇生が無事に成功したことは、
アーネストやアンドレアにも伝えておくわ。
またいつでも遊びにきてね。
というリンたちに見送られて、
アイスとフミコはクラウドの家を後にした。

マークっていう人は
この集落のリーダーだって言ってたわね。
そうなの。
あなたが無事に蘇生したら
あなたを案内してこの集落に戻ってくるから、
その時また会えるってマークに言ってあったの。
こんなに早くそんな機会が来るとは
思ってなかったけど。


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二人はマークの家に向かっていた。

マークはね。
あなたと同じように蘇生した人。
あ、それは全然違うかな。
マークは人間じゃなくて、
6分の1サイズのアクションフィギアの精霊なのよ。
でもずっと自分が人間だと思い込んでいた。
彼は戦争中に兵士として活動していたんだけど、
砂漠で嵐に巻き込まれて、そこを抜け出したら、
戦争がとっくに終わった未来であるような、
この世界に来ていたという。
でもマークが最初に生きていたのは、
誰かの想像が産んだフィギアの精霊たちの世界で、
あなたのように、同じこの世界の過去から
未来に蘇ったというわけじゃなかった。
だからこの世界に馴染めなくて、
ジャングルの奥地に集落を開いたんだけど、
リーダーのくせに寂しがり屋なの。

誰が考えたのかややこしすぎる話ね。


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マークの家に着くと、
クラウドの家で見かけたアマンダが
すでに庭仕事の手伝いに来ていた。
庭で草むしりをしていたマークが
気がついて近づいてきた。

アイス。驚いたな。
三日前に帰ったばかりだと思ったら、
何か途中でトラブルがあって
戻って来たのかい。

いいえ。無事に帰国して、
蘇生の呪術に成功したことを伝えに来たのよ。
この人がフミコ。


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アイスたちが移動に使った
鏡の扉の説明をすると、話題は
どうしてもその話になった。

鏡の扉と違って、
マークが体験した砂嵐は幽冥界との通路で、
魔法では生み出せないって、
フラウが言っていたけど。

それはその通りね。
誰でも死ぬことはできても、
自分だけの意思で戻って来れるような便利な扉はない。
鏡の扉で行けるのは現実に繋がっている別の場所や
命あるものたちの夢や想像、呪力で作られた異世界。
似ているようで全く別のことなの。

砂嵐の前にいた世界のことは、
もうあまり思い出すこともないけど、
僕はそこで第二次世界大戦の
アフリカ戦線に従軍していた兵士だったんだ。
アイスがよく似た戦争中の異世界に行ったことがあって、
そこではフィギアたちの精霊が暮らしていたというので、
初めて自分もフィギアの精霊だったことを知った。
とマークが言った。


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最初は自分が砂漠で戦死して、あの世にいき、
何かの計らいか偶然で、フミコみたいに未来の世界に
蘇ったんだとばかり思っていたけれど、
フラウにも最初からフィギアの精霊だと
わかっていたと言われてちょっとショックだったな。
今はもう昔のことは関係ないけどね。

戦時中だった世界が懐かしくならない?

まあ、ごくたまにはね。

だったら私の知っている、
フィギアの精霊たちの村に案内してあげられるわよ。
前にも言ったように、
私の住む町にいる魔族一家の館には、
彼らの暮らす世界に行ける鏡の扉があるの。
今ではその扉を使って村の住人たちの何人かは、
私たちの町に移り住んでいるわ。

アイス。
そんな面倒なことをしなくても
あなたの呪力で鏡の扉を生み出せば、
直接ここからその村に行けるのよ。

え。

でもまあ手順を踏んだほうがいいわね。
ひとまず魔術劇場のある町に戻って、
その村の人にマークを紹介して
承諾してもらってからのほうがいい。

私の生きていた頃には、
6分の1サイズのアクションフィギアなんてなかったけど、
木や土の人形に宿った精霊たちとはよく遊んだりした。
彼らを憶う人々の願いと彼らの願いが重なって、
そこに意志を持ったものの呪力が加わると
小さな夢のような共同の世界が生まれることがある。
そういう世界はうたかたのように
とても繊細で壊れやすいものなの。
不意の来訪者には拒絶反応を示すこともある。

そうなのね。


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アイスが魔術劇場を思い浮かべて
脳裏に浮かんだ言葉を口にすると、
部屋の中に鏡の扉が現れた。

マークさん、
私もアイスの住む町で 
いろんな人に出会うのが楽しみ。
あなたもいらっしゃる?

う、うん。
もちろん。
その前に庭仕事を手伝ってくれている
アマンダに留守番を頼んでくるよ。
この集落には泥棒なんていないけど、
猿が来て時々悪戯するんだ。


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マークはアマンダに訳を話して
留守番を頼んでいる。
貴重品は何もないけど、
大きな鳥の羽根だけが気がかりなんだ。

いいわよ。鏡の扉を使って行くなんて
フラウが聞いたらきっと羨ましがるわね。


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かくてアイスたちは
魔術劇場に戻って行った。
グリーンマンが
ちょっと悩ましそうな顔をして
その動きをじっと眺めている。



解説)
続きます
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