Jun 20, 2022
夜会 そのろく
男は首と片腕に包帯を巻いている。
おお、やはりここにおいででしたか。
ヴィヴィアンさん、
病院から逃げ出して、あなたのことを
思って彷徨っていたら、
ここに行きついてしまいました。
そうだったの。
咬み傷はもう痛まない?
ええ、すっかり。
お隣の女性に蹴られた腕は
まだ疼いていますが。
これからはあなたと共に。
あなた、お名前は?
それにそのサングラス、ちょっと
外してみて。
私はヨシフと言います。
どうなさいますか。
捜索中の人物なので、
我々が引き取ってもよいですが。
その前に、これ
もう一つ食べてからね。
ふむ。
咬まれた人に盲目的に従いたくなる、
というのは、ある種ヴァンパイアの特性なんだ。
元はと言えば、ヴィヴィアンの犠牲者だし、
その熱が冷めるまで、ここで匿うことにしよう。
君たちを信用しないわけではないが、
CGや諜報機関に渡せば、上の方の決定次第で、
秘密漏洩を防ぐために抹殺処分、
良くても隔離されて実験材料にされかねないからね。
それでよろしいかな。
ヴィヴィアンさんのお近くにいられるなら。
私はもうそれで。とヨシフは言った。
わかりました。上の方に事情を説明して、
表向きは迷いの森に逃げ込んだということにして、
近いうちに捜索を中止させましょう。
しかし手配書はシティポリスにも出ているはず。
そのジャージ姿で町中を出歩くと目立ちますよ。
ヨシフ君には、パペになってもらうよ。
それでいいかね。
ええそれはもう。とヨシフは
なんの事か、よくわからないまま答えた。
それと、一つだけ申し上げたいことは、ここには、
ヨシフさんのお仲間のイリヤ氏がお泊まりのようです。
とジムが言った。
え、とヨシフとカーミラが同時に言った。
彼は不死身のイリヤと呼ばれて、
ヴァンパイアに比肩する強靭な体の持ち主で、
英国の裏社会ではそれなりに有名な人物です。
彼の所属する組織は手をひいた筈なので、
その後の単独行動が今ひとつ謎だったんですが、
お話を伺っていて、どうもわかりかけてきました。
私の普遍的な美の魅力に惹かれて、
無意識に寄ってきたということかしら。
お母さんに咬まれたからなのね。
とヴィヴィアンが言った。
ご忠告ありがとう。
私は人の心がある程度は読めるので、
彼がかなりの苦労人だとは察していたが、
カーミラがまだヴァンパイアだった頃の
被害者だったとは気が付かなかった。
カーミラから何も聞いていなかったし。
イリヤさんがここにいらっしゃるんですか。
彼は私たちのグループのリーダーでしたが、
この前の襲撃に関してはノータッチのはず。
彼の鼻を明かしてボスにいいとこを見せようと、
下の仲間で計画したことなんです。
これは会ったら怒られるなあ。
そういうことで、
6月のみどりの夜もすっかり更けたようですね。
今夜は何かと有益なお話ができたと思います。
今の段階で、私たちがヴィヴィアンを護衛する
という任務に変わりはないので、
これからもよろしくお願いします。
では、私たちもそろそろおいとまします。
あ、これ食べ終わったら
とアンジーは言った。
解説)
こうして長い夜会も
ようやくお開きになったのでした。
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