Jun 19, 2022
夜会 そのご
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頃合いと見て、
アンジーは少し姿勢を正して話し始めた。
ハリーさん。ヴィヴィアンから既に
お聞きになっていると思いますが、
実は私たちは英国の諜報員で、
彼女の護衛を命じられていました。
なぜか、と言う事情もお察しのはず。
彼女の今後に関係するかもしれない
二つのお伝えしたい情報があります。
一つはヴィヴィアンに咬まれた男性が
病院から逃走して、目下捜索中ということ。
もう一つは、魔族のリーダーが率いる
ヴァンパイア一族の一部の過激派組織が
ヴィヴィアンの英国での事件を知って、
動き出したらしいということです。
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その逃走中っていう男性は、
磁石に引き寄せられるように、
ヴィヴィアンに会いたくなって、
ここに来るかもしれないわね。
そうじゃないケースもあるけど、
咬まれると大抵そうなるものだから。
それに魔族のリーダーって、
マーリンのことじゃないかしら。
とカーミラが言った。
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多分あいつだな。
マーリンは私の幼なじみで、
一緒に魔法の研究に夢中になって、
ヴァンパイアの不老不死にも興味を持ったんだ。
私は自分と妻を実験台にして、
一時はヴァンパイアにもなってみたんだが、
彼は魔族のまま、研究を続けたようだ。
ヴァンパイア族は今や絶滅危惧種で、
人類と相互不可侵の秘密協定を結び、
国際機関や各国政府から提供される
輸血用血液に縋って生きている。
今でもそういう境遇に反発している連中が、
彼の元に集まったんだろう。
マーリンのことだから、
早晩この場所も見つけるだろう。
だが、あいつが相手なら望む所だ。
というか、随分と会っていないので、
懐かしいくらいだよ。
彼はね。ヴィヴィアンの実の親じゃないか、
っていう噂もあるの。とカーミラが言った。
私たち夫婦は、ハリーが特別な薬の調合に成功して、
ヴァンパイアから、元の魔族に戻ることができた。
その時に、彼らとの契約のこととか色々あって、
孤児院からヴァンパイアのヴィヴィアンを
引き取って育てることにしたの。
ヴィヴィアンは昼間でもあまり眠らず、
特別な透視能力を持つ子供だった。
それは片親が魔族だったせいに違いないと言われて、
疑われたのが、当時トランシルヴァニアの古城に
引きこもって研究していたマーリンなの。
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貰われてきた子供本人の前で
よくそんなデリケートな家庭の事情言えるね。
なーんてね。
実は私も、イギリスで問題起こした時、
気が付いたヴァンパイアの人たちが騒ぎだして、
やがて彼が乗り出してくるんじゃないかって、
ちょっと期待してたの。
一度会ってみたいし、本人から聞けば、
本当かどうかはっきりするでしょう。
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これ美味しい。
やっぱり丹下さん才能あるなあ。
あ、失礼。
もしそのマーリンっていう人が、
ヴィヴィアンを引き取りたいって言ってきたら
どうなさるおつもりなんですか。
それに、超人兵士やある種の新人類を作るために、
彼女を独占して研究対象にしたいという
特定の国家やテロ組織が現れることも予想されます。
我が国やCGが中心になって評議会を結成したのは、
そうした事態を憂慮してのことなんですが。
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どうするかは、
最終的にはヴィヴィアン自身が決めることだよ。
だが、隔離して実験材料にするというような話だったら、
相手が君達でも、もちろん渡すわけにはいかない。
そうなると、腕比べだね。
とハリーは楽しそうに言った。
外で彼に会ってもすぐわかるように、
今のうちに若返っておこう。
そう言って指を鳴らすと
薄煙と共にハリーの顔が変わった。
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叔父さんって最高。
と猫のマリアは小声で言ったが、
誰にも聞こえていなかった。
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その時、エヴァが
ドアを開けて入室してきた。
あの、どうしても
ヴィヴィアンに会いたいっていうんで、
入ってもらっていいですか。
ちょっと怖い人感じの人なんで。
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入ってきたのは
屈強そうな長身の男性だった。
解説)
どうなることでしょう。
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