Jul 08, 2006
遠いうた 拾遺集 石原武 (1)
石原武氏は一九三〇年、山梨県甲府うまれ、詩人であり、翻訳者であり、英米文学者です。優れた骨太な詩集もたくさん出版されていらっしゃいますが、わたくしが特に注目したのは、「詩の源郷」「遠いうた・マイノリティーの詩学」などの評論集でした。マイノリティーな詩の発掘に注がれた石原氏の視点は、わたくしが知りたかった多くのことを教えてくださいました。本書はそれらをさらに推し進めて、月刊誌「柵」に六〇回、五年に渡って連載されたものを一冊にまとめたものと思われます。なんと五六〇ページを越えるものですので、本書を手にした時のわたくしはいささかたじろぎました。と同時に石原氏のあのおだやかな表情の裏にかくされた深い情熱と真摯な姿勢を見る思いでした。
青春期の入口あたりで日本の「敗戦」の有り様を見つめ、そしてまた混迷する現代をみつめながら、石原氏の詩魂(こういう言葉が息づいている。)を支えてきたものは、「遠いうた」だったのではないかと想像しています。
ちょっとお話がそれますが、シェークスピアのソネット「ⅩⅤⅠⅠⅠ」の翻訳はたくさんの翻訳家がされていますが、わたくしはこの石原氏の翻訳が一番好きでした。これは「君を夏の一日に譬えようか・二〇〇二年・さきたま出版会刊」という詩に関するエッセー集の一節として登場しています。
君を夏の一日に譬えようか
君はもっと美しくもっと優しい
心ない風が五月の蕾をふるわし
夏のいのちはあまりにも短い
"The Sonnets" No.18
Shall I compare thee to a summer's day?
Thou art more lovely and more temperate:
Rough winds do shake the darling buds of May
And summer's lease hath all too short a date:
・・・・・・というわけで、この著書はあまりにも膨大ですので、今日は入口だけです。数回に分けてメモのように連載するつもりではおりますが、途中挫折の際にはお許しを。出来うる限りこのご本の石原武氏の「熱」をわたくしの言葉として書いてみたいという思いです。
(二〇〇六年六月・詩画工房刊)
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