本当は　嫌いなんかじゃあなかったのに
大嫌いなふりをしてしまった
彼が感動した　という
フリーダ・カーロの絵を
気持ちが悪いと一蹴した
その絵のコメントをみれば
好きにはならないにしても
感動の余地は充分あるのに
そんなことは
これっぽっちも告げないで

私が決まって使う　難しい用語も
なおしたほうがいいよ）　といわれ
いやよ　私はなおさないの）
と反論して　気がつけば
ことごとく　彼の反対を言っていた

いつまで続くのか　
どこまで続くのか
日々のくらしの中で
息をするのに疲れるように
追いかける体制に　
少しだけもがいている　わたしがみえる

トムとジェリーは走り疲れた
猫とネズミは　しょせん相いれない間柄
それを　あの時　猫は気づいていたのか
猫とネズミだって仲良くできるよ
そんな奇跡が起きれば　すばらしいじゃない）
猫の毛の中でネズミが眠る奇跡
そんなことを期待して

でも私は　何故かだんだんと苛立って
その追っかけっこに
未来が見れなくなっていた
私はどこまで行っても　鬼の役だから
追っかけるのに疲れてしまうの
おいでおいで）　と手招きされると
当たり前のように　ついていきたくて
もつれる足で　もう一度地面に立ち
直立不動してみるけれど
やっぱり走れなくなっていく
立ち止まれば　足から地面へと
根っこがどんどん　はびこっていく

ちょっと疲れたから　私はここで休んでいくね）
猫とネズミが仲良しなんて
誰も信じない事実だけれど
私は　本当は
いい　トムとジェリーの関係でいたかった
先にいっていいよ　ここの木陰で休んでいくから
それから　あとを追っかけるね　マイペースでね）
大丈夫　姿が見えなくなっても
想い出は　海へ捨てたりしないから

（２００４,１月号；　現代詩手帖　佳作
　　　選者；田野倉康一　）