WINTER WALTZ
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WINTER WALTZ



 仄かな冬の照り返しのなかを、旅人は来た。さかさまの鰊の骨みたいな並木を過ぎ、色とりどりのセーターが滑りめぐる氷のほとりを通って、青黒い鉄の柵をくぐると、そこは遊園地という名の《境内》である。純白の経蔵やきらびやかな山門、仏塔、金堂のように、不安定な青空に人を投げ上げる舟、たよりない悲鳴とともに降りてくるパラシュート塔、くるくる回るピンク色のティーカップが威儀をととのえて旅人を迎える。見えない五線譜が一斉に弾かれる園内は溜息みたいに通俗的な悲しみがただよい、道化師は狂気の縁であちらこちらの人だかりを笑いどよめかせている。ソーダ水とワインと、ケチャップを塗りたくったソーセージとで抽象的な空腹を満たすここは、いわば小さな地獄めいた壮麗さを湛えた楽園である。《境内》の中央には世界の中心みたいに巨大なメリーゴーランドが回転している。極彩色の鞍・鐙を装着した白馬や青毛(あお)が、きんいろの棒につらぬかれてゆっくりと上下しながら、あらゆる雲、森、町や海を引き寄せながら、いろいろな美しいがらくたをみずからの背に積み上げてゆく。花束と銀紙に包(くる)んだ焼き菓子に埋まる聖母像、おび ただしいスプーンと杓文字が捧げられた無垢の神棚、はるか以前に棄てられたベビーカーや歩行器、亡くした子どもの写真やまた行かなかったさまざまな旅の記念品など、木馬が廻るにしたがってどんどん堆くなってゆき、どこかで「お帰りなさい、会いたかったの」というなつかしくて見知らぬ人の声が聞こえ、ワルツはますます涙もろく、嘆きにみちて、時間は失われあらゆる未来が消失する。こんじきの破壊に喜悦するこの遊園地が尽きるところ、世界の果てでとどろくものがある。今夜の花火が揚がったのだ。冬の花火が。


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