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わたしからくるしい肖像がたおれる! 
描かれたもの 
描かれなかったもの 
それからのちの憂愁が囲い込む 
明るみのふかさのしたにわたしの身体が立っている 
落葉のように積み重なって死んだものらは紅潮する 
昏れてゆく眼が視おろすふたしかな下方から 
徐々に周囲を埋めてゆく音楽 
熱くなるものを伝えながら いま 
声があがる 
驟雨の奥から夜がやって来る 
とおい空間に開かれる 
かわいた唇ははるかな零(ゼロ)に吸引され 
かたくなに眠りつづける想像を抱いて 
世界は大またに歩み去る 
  
   ※ 
  
異なった夜のあいだでわたしたちは眠る 
わたしたちへ架けわたされる火のない両極 
濃密に狭められてゆく黄昏の淵に 
風をへだててわたしたちは衝迫しあう 
接近が わたしたちをあたらしい空白で賦活し 
さむくなってゆく眼が密雲のようにうごく風景を灼いてゆく 
そしてすべての水面が告知する わたしたちは 
愛する暴風雨(あらし)を沈めた夜と夜のくらいかがみに向き合わされる 
果てもなくたちのぼる眼の闇の臨界に 
一点の向う岸が灯される わたしたちの 
色付けられない身体には凝る寒流が喚び込まれ 
そこにはじめての声をしたたらす 
先発つものから襲われてゆく 
わたしたちをはるかに遅らせるもの 
恐慌を沈める厚い遠景の夜から 
わたしたちのうちがわを鮮烈な車輪が迸ってゆくだろう 
  
   ※ 
  
ふかい虚(うろ)のように風景が残されている 
視えないひかりに開かれた胸廊のおくのほうへ 
幾まいも襲いくる燃焼のなかの秋の場処へ 
照らしだされるごとに沈んでゆくいちじるしい距離がある 
彼方から 
導線(コイル)のように伝ってくる一滴の知識 
冷えこむ虹彩のなかで堪えている 
わたしの人間 そのかたくなな眠りのうえに 
死んだものらを方舟のように流す雨の日付が過ぎてゆく 
〈そしてわたし・わたしでないもののため〉 
いちどきに戦慄させてゆくはげしい落葉 
夥しい予知を含んで秋へもりあがる風が視える 
まだ来ない落葉の層に純粋な冬の溺屍体が視える 
まなざしによってわたしを費やしてゆく水底の空 
熱い瞑目のうちがわに顕つ季節の線に 
わたしたちのみしらぬ記憶がくらい肉のなかから析出されてくる 
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