1 
わたしは演じる 
わたしは演じられる 
秋! 失った符牒の空のしたで 
声のない動作をひらく鍵 
実り継ぐおおくのものを叫ばせて 
一滴の血を置いてしりぞく風景 
一瞬の遺構に太陽が過ぎてゆく 
明日わたしが占めない席の 
静かな数字へ 感情はふかく色づく 
 
 2 
背後の円卓をくつがえして現われる病気 
たしかな暗黒としてたつ個人 
死すべき厖大な名を載せた書物が 
窓ぎわに迫る季節風(モンスーン)の 
豪奢な眼光のなかに影を奪われる 
鳥が抜ける胸 
腐蝕しない世界に吊るされた部屋へ 
雨は訪れる 
香りたつ蜂のように 
逆さまに円熟する無花果のくちに 
声の処刑 落日をめぐる 
やさしい毒はあつめられてゆく 
 
 3 
読み手のなかで回転する日時計盤 
くらい花を夥しく落として終わらせる中心の 
秋! わたしは演じられる 
わたしが演じるものへ 
かぎりなく向きあってゆく逆行の形姿(かたち) 
風が閉ざす輪郭の街 
かつて踏みならされない広場の夢から 
片脚ごとにふかまってゆく 
生きたままの肖像がつくられる 
しだいに埋められてゆく不安な伽藍 
物音のなかの光り 
誰も入らぬ家の内がわで 
八月は巨大な卵のように血を流す 
 
 4 
他人の収穫期 
一個の椅子が倒される 
一枚の画布が運び去られる 
陸封されたいくつもの眼を愛してきた 
生きものをみつめるように 
ひとさらの食事に対座する 
ながい傷 
新しい紋章のさなかに顕われる横顔の秋 
わたしは演じる 
わたしを演じるものと 
かぎりなく訣れるために抱き合う屍体 
声をなくしたひろがりのなかで一点となる 
襲うもののない標的 
空をうめてゆく空 
それ以上のものへ 
とめられてゆくまなざしの鋲をうつ 
 
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