鳥を描く
倉田良成詩集 旱魃の想い出から 一九七〇〜一九七五 目次前頁(歩くひと) 次頁(無言歌)
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鳥を描く



鳥を描く
ゆうべの血液を遺した像のなかで
わたしは世界に属さない
所有するものはすべての眼
四方の壁に埋められた声の砦は
果てもない遠近を満たす
どんな空の高さに堪えている?

鳥を描く
まなざしが閉ざす
空気の円のなかを飛ぶもの
冷たい封蝋を落として終える房(へや)から
くらくはじかれてゆく散弾の実数
はるかな回廊を去ってゆく時間の後ろでは
太陽につながれぬ
一個の空間がはげしく熟れている

巨きな旗のように降りてくる夕べ
闇に透視される背筋を撓めて
鳴りわたる鞭の響きに占められた空へ
あらゆる都市に影を曳いてゆく鳥を描く
前方へ
ふりしきる羽毛の冬へ
仄かに分裂する対岸
もっともちいさな版図の内部(なか)に囚えられた
一対の眼にむかって
もっともとおくからやって来る
鳥は 鳥の描き手

くるおしい太陽の失明にひらかれた
耳朶に張りつめる夏の黒点
たえまなく波打ってくる伝達のしたで
まだ産みおとされぬ火を抱く向日葵の街
あしたの食事のなかで最初に割られる皿と
はじめてもたらされた声のなかで倒れる男子とへ
世界の零時はふかまってゆく青の刻

出来あがらない絵画の時間を置いて
かぎりなく遁げてゆく神の爪痕に
空は 恐れられた季節が孕む一滴の音声
鳥を喚ぶ
まなうらにうねる濁流の秋
すべての生きものが遺棄される岸壁に
純粋な羽音をきりさいて
鳥は来る
わたしは世界に属さない


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