歩くひとのうえに夕映えは降りてくる
背丈よりもひくい翼
地に伏して口づけられる黒い水のために
すべての言葉(ロゴス)が したたる風景のおくでみじろぐ
めぐりゆく指紋のように睡りを蔵した季節の
まばゆくふりほどかれてゆく樹木の記憶を湛えて
夜は はるかな眼底がうけとめる
すでに尽された時を刻む瞳孔の街の底で
歩くひとは
冷酷な天使が鳴らすそらの鐘
水晶のような零時の怒涛を浴びている
胸の高さにひろがる想像のうみのふかみでは
みしらぬ獣たちが光りをあげて契りあい
嘔気にみちて炸裂する寓意の花々を
黒衣につつまれた地の由来
とおく喚ばれる幾千の沈黙の手がしずめる
ふりそそぐ予兆の矢の形のさなかで
歩くひとは
夜半に繰られる土気色の年代誌へ
熱い蝋のように点滴される他人の声を聴いている
歩くひとのうえに夕映えは降りてくる
泡立つ航跡のように追ってくる伝承のゆめ
くらい書物となって読みつくされる世界の秋に
歩くひとの背は火のようにそよぎ
うまれようとして渦巻く風の優しさの中から
とつぜん燃える頭髪をもつ一個の幼児はとりだされる
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