讃歌
倉田良成詩集 旱魃の想い出から 一九七〇〜一九七五 目次前頁(無言歌) 次頁(帰還)
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讃歌



六月の陽射しは恐れられる
不毛のサンダルを履いて訪れる恩寵の
石のなかの声
全盲の街々が
巻き絵のように束ねてもやされる
千本の撚糸
生きてならないものの羽根を灼く
重なり合う贋造の鱗から
ひかりのなかで静止する凝結の赤をみつける

昼は頭のうえにある
影から影へ囚えられてゆく
いくつもの輪におちる瞳孔のきりくち
見抜かれぬ落体の面貌
絞られぬもの
みしらぬ氷の器具に挟まれて
世界の痛みに置かれた冬のリンゴ
日干しにされたいちまいの水へ
あらゆる窓が
音色をあげながら溶けてゆく

上昇する文字盤の花
市場に積みあげられる日を継いで
すべて一輪の太陽に圧し込める
くろい象形の種子
あおい灰を被る大時計のなかの使徒たちは
泥のように発しない書面にむかってうずくまる
痩身の労働の地の底で
あかつきの体積を殖やすまばゆい球根が
ふいに異なる重みに出遇う?
喪服から出される手
巨きな旗を降ろして一日が終わる

純粋な鎌が虚空をかきみだす
黄土の地図へ閉ざされる
うちがわの馬蹄形
湖(うみ)鳴りをならす中央塔に
ひるがえるみみは晩餐の闇に散ってゆく
花のない十字路に呼びよせる火の時節
蝋涙がおとす遠方から来る空は
のどぶえのおくにいつまでもとどまる

多くの馬が妊まれる
酒瓶に容れられたかみなりと夜
残響の美しい注ぎ手がまわってゆく
いかなる魚も盛られていない契約の皿
声の気温に掛けられた漆喰の部屋の
粗い布に挿される旱魃の顔(マスク)
ゆらめくもののない内面は封じられる
かたどられたてのひらの
陽光にむかって滲みだす擦り疵へ
顕われる純潔のエスキース
あしうらだけを残して去る聾唖の土地に
未聞のしるしが色づく
うしろむきの福音(ゴスペル)が立っている


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