恋歌
倉田良成詩集 旱魃の想い出から 一九七〇〜一九七五 目次前頁(伝説) 次頁(室内楽)
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恋歌



すべて髪はくらい巣の形へかえる
いくすじものさけびを織り込んだまま
風はふかく抽象されていった
名前をもたない
もろもろの手が塑像する闇のマッス
ほのおも棲まぬ漏刻の盤のうえに
香りたつもの
生け捕られた果物をめざして
はるかにおしよせてくる瞳孔の沖

花のような驚愕に彩られた時間にむかって
まばゆく咲き出る大輪の耳はまたひとつ
音楽は不安な樹木のように伸び拡がり
迷宮の空に血脈を走らせてしまう
はや追われるものは眼
あけびいろした世界の全円は
おおきな睡りにつくことができる

みどりなす頭蓋にみちる声の夢
禁断のブロンズには
発熱の星座がからんでゆく
けして芽吹かぬ時計の内壁で
一個の夜は銀細工のようにこわされた
爪のようにともされつづける額を
いかなる指がうったのか
あきらかな鍵の形で
少女はひとりつくられていった


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