Jun 21, 2007
サン=ゲブロックの夕べの印象(3)
わたしたちは古いヨーロッパの船が通るのを眺める錆だらけの。
巨大な川船が三本の河を航行していく――
甜菜、石炭を積んだ川船。
砂糖から商人たちの富裕がもたらされた。
彼らはその罪の埋合せに、マウリッツハウス宮殿を建築させた。
わたしたちはそこにその肖像画を見に行く
影の支配するその赤ら顔を。
苦悩に立ち向かおうと
挙げた手で作られた二つの完全な円のことを考える
ヴァン・レインよ、きみの顔はわたしたちと地獄との間にある。
自動車道の向こう側に一頭の馬が姿を現し
廃れた農家のそばの
ポプラの間で揺れている。
マウリッツハウスの館の前では
一一人のアマゾンのインディアンが踊った
羽根を広げ、思いを閉ざしたまま。
註
この連は内容からすると、オランダ、ハーグの印象である。北海に面する国際港湾都市で、デルフトと隣り合う。
古いヨーロッパ=la vieille Europe 年老いた、古風な。哀惜の念の混じる表現。
川船=péniches 砂、建築用材などを河川運送する底の平たい船
マウリッツハウス宮殿=Le Mauritshuis 現在の王立マウリッツハウス美術館。オランダ、ハーグの中心街にある美術館。フェルメール、レンブラント、ルーベンス、ヴァン・ダイク等オランダ美術の粋を収蔵。一七世紀に建造され、ブラジル総督ヨハン・マウリッツ公の居城だった。一八二二年に王立美術館となり、館の主の名をとってマウリッツハウスと呼ばれている。
その自画像=ses autoportraits その金満の館の、古いヨーロッパ自体の、自画像。
ヴァン・レイン=画家レンブラントのこと。フルネームはレンブラント・ハルメンス・ヴァン・レイン。一六〇六年オランダ、ライデン生れ。父はライン川の堤防沿いに住んでいたので、ヴァン・レインと名乗っていた。ここの三行で歌われている内容は、マウリッツハウス美術館の名品の一つ、レンブラントの「トゥルプ博士の解剖学講義」(一六三二)に関する詩人の思いである。
WriteBacks
おひさしぶりです。
はじめの三行だけで、朝もやに帆船が佇むオランダ、ハーグの港湾の、なんかそんな絵画がありましたね。多分そうだろうと思えました。いいですよ。
詩の翻訳は、翻訳のなかでも特に格闘だと思うのですが、どこまで日本語的にするか、翻訳調にするか、ふと思いました。
哲学書なら、単語を直訳して専門用語で概念をはっきりさせたりしますね。そういうわけにもいかないし。
ドイツ語の、シューベルトや文献のある分は、大事なところだけ、原文を見ます。フランス語、もうちょっと勉強しとくんだった。
Posted by とみざわ at 2007/06/22 (Fri) 00:18:29
翻訳詩のこと
はじめまして。南原と申します。
詩の翻訳はとてもむずかしい作業だとぼくも思います。僕自身は翻訳をしたことはありませんが。
有働さんの「サン=ゲブロックの夕べの印象(3)」は、すっと入ってきて、とても上手な翻訳だと感心しました。原文は見ていませんが、原文のよさが推察できるような気がします。
余談ながら、ぼく自身がときたまたわむれに英語で詩(らしきもの=おそらく韻の踏み方が不正確あるいは踏んでいない)を書いてみて、それを自分で日本語に訳してみると、ふだん書いている日本語の文体とちょっとちがってくるので、おもしろいと思っています。
これからもすてきな翻訳詩を読ませていただくことを楽しみにしています。
Posted by 南原充士 at 2007/06/22 (Fri) 13:01:19
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