Jun 08, 2010

さいけつ

採血はかならず失敗される 
もちろん痛い
どこの病院でも
だれがおこなってもかならず一度ではいかない
不安でまず左腕をさしだし
「あ」という声を聞いてから
右腕をだす(こころの準備はできている)
みんないろいろな理由をいいながら謝ってくれるから
すこし笑顔をつくったりなんかする

看護士は首をかしげながら
試験管の中に溜まった血液を振り混ぜている
ようやく採取した戦利品のようだ

両腕の絆創膏をはがしながら
「もう充分に生きたつもり」とじぶんが書いたことを
ふと思い出してはガラス窓を見る
そういう夜は
たいていいつも六月だ
試験管の中で振り混ぜられる血の記憶が鮮やかで
どうにかやりすごしたはずの五月が
予測してはくりかえす失敗のように
どこまでもおいかけてくる
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Jun 03, 2010

ろくがつ(2)

ちょっとした不注意で 
古い蛍光灯を割ってしまった
みごとに粉々になった

職場で

ちょうど誰もいなくて
いそいで片付けた
「ガラス 危険」と赤いペンで書いて袋に貼り
ゴミ置き場に持っていったら

掃除のおじさんが汗をかいて黙々と仕事していた

「あとで休憩にきてくださいね」と声をかける

それから
ガラスがまだどこかに落ちていてはタイヘンなので
デスクの下や椅子のところや
キッチンの近くまでかがみこんで念入りに調べた

会社の人が来るはずなのにこない
早く来ればいいのにと思ったり
「まだこないで」と思ったりしているうちに

すっかり夕方になった
掃除のおじさんもお茶を飲んで帰った

昨日みたいに六時がきた
ガラスが気になってやり残した仕事があるようで
ぐずぐずしていた

昨日と今日はべつの一日
まったく違う仕事をして
疲れて帰るときはバスを待っている

だけどきょうも心地よい風が吹いていた
秋が終わるような風だった
あるいは
だれもこないことを知りながら待つときのような

不安のかたちにすっかりなじんで
どこへもいけないときは
どこへでもいけるような気さえして・・・。
Posted at 23:31 in poem | WriteBacks (0) | Edit

Jun 02, 2010

ろくがつ

六月の夕方はあかるい 
六時に仕事を終えて外にでる

この古い自転車にはライトがつかないから
さっさとかえればあかるいうちに
猫の待つところに戻れる

もうわたしとしては
じゅうぶんに生きたつもりなので
死への誘惑がアタマからはなれない


おかしなこどもだったけれど
ちやほやされて青春をすごした
結婚して懸命に家庭をまもった
できるだけのことはちからをつくした

愛することを知り
愛されることを知った

そしてもう
いくべきところがみつからない
ただあの猫がまっていてくれるから
猫とわたしのベッドがあるから

六月のあかるい夕方
風をきって自転車をこいでいく

死にたいと思っているのに
ぜったい言ってはいけないと知っている
知っていることをほめられて
どこまでもどこまでも風が気持ちよい
Posted at 22:28 in poem | WriteBacks (0) | Edit

Jun 30, 2008

再会

6月12日
小石を投げてはいけないのは「平穏なあなたの家庭」ではなく
じぶんのこころのなかだと気がつく
あのとき何気ないふりをして
カップについた口紅をぬぐっていたけれど
ほんとうはじぶんのせいではなくて じぶんのためだ

6月14日
それでもわたしたちは「悲しいくらいにオトナ」になったので
わたしは何度でもあなたに手紙を書ける
あなたが待っていてくれる

6月8日
30年もの遥かな歳月が過ぎて
無邪気に過ごしたあの日々を懐かしく思い出しながら
わたしたちは互いの名を呼び合い再び出会った

6月15日
出会ったその日が遠い昔のキャンパスなのか
つい一週間前だったのか
とつぜんにわからなくなる
幻をみたような曖昧さがふたりの距離を確定するかのようだ

 (子守唄みたいにセピア色の尾瀬
  早足のあなたにおいていかれて
  やっと追いついたのにけっきょくはひとりとひとりになって
   それぞれの心の中を見つめていたあのとき)

6月22日
小石はとっくに投げられていたのだと気がつく
まなざしが交わされた瞬間の微かな震えは漣
眠れない夜の海に浮かべた揺れる小舟は
あなたのところへ行きたがっているからひき止める
「すべては間に合わない」という意味のない自問が
臆病な半月のように
黒い雲に隠れたりまた顔をだしたりしている
Posted at 14:04 in poem | WriteBacks (0) | Edit

Sep 12, 2007

小石

連絡を待っている 
連絡が来ない
そうして
あたしの前から彼が
去って行ったのだとようやく理解するとき
それをいつもあたしは
男の思いやりだと考えていた
『沈黙』というかたちで示された終止符を
何度も見つめてきた
あたしを傷付けないために
彼は黙って消えたのだと
都合よく考えようとしながらも
その静かな衝撃に耐えながら
あたしはまた一歩 森の奥へと入って行く

冷たい小石を拾ってポケットで温めながら
手は無意識に石の汚れを拭っている
彼はいい人だったに違いない
困ったようにあたしを見つめていた眼差しに
気がつかないふりをしながらよそ見をし
本当に寒かったので身体を寄せた

沈黙、という手段は 卑怯ではないよと
あたしは自分と男に伝えたいのに
もう その方法がない
彼は遠くて
あたしの感覚は麻痺している
好きだったあの低い声
含羞んだような笑顔とあたたかい手
もう届かないのだと何度も気がつくために
感情の池の淵を覗こうとする

静まり返った森の中で
ポケットの小石だけが
自分を支えている
けれど致命的な何か、はすでに刻印されているのかもしれず、、、
それを取り出して眺めることは
今は できそうにそうにない


        2005/10
Posted at 13:46 in poem | WriteBacks (0) | Edit

Aug 21, 2007

アンクレット

きっとわたしは 
あなたの気持ちを繋ぎとめるために
頷いたのだ
でも 卑怯者にはなりたくないな
わたしの有罪判決は
あなたの心には届いていない
ただ ふいにかすめた毒の香りが
あなたを惑わせたのに違いない

あなたは わたしの身につけているものを
すべて取り去り
「きれいだ」と 何度も言ってくれた
あなたがあまりに静かに
そっとつよく
わたしを抱いたので
わたしはあやうく
恋人の面影を見失いそうになった

大切にしてきたものは これで壊れてしまわないか
それは何?
それは温めてきたあなたとわたしの
微妙な安定感
あるいは恋人のこころとわたしのこころ

怖くはないの?と聞いたら
「こわい」と言った
まるで若い愛人のように
知りたいことさえ
知ろうともせずに・・・

わたしはもちろん娼婦でもなく
睫毛を伏せる少女でもない
ましてや時計を見上げる
童話の主人公である筈もないけれど
限られた時刻が
自分を見張っていることを知っている

わたしは駅の人込みにまぎれ
混雑する夕方のスーパーに辿りつこうとする
主婦だから
あなたがわたしの素足に飾りたいものは
きっと似合わない
でもそれが
秘密の約束なら
やっぱり欲しいかな

躊躇いと首肯の連鎖は
寡黙なあなたを
共犯者に仕立てるかもしれない
繋ぎとめるなんて たやすいことと
いつかわたしが教えてあげる
ありふれた御伽噺みたいに
こわくないように気をつけながらね



2005/11
Posted at 14:30 in poem | WriteBacks (0) | Edit

Aug 13, 2007

メッセージ

気がつかないふりをして 
言葉を送り続けていた

言い訳のように 陽が沈み
ついでのように 日付けが変わると

無意識にポケットを探りながら
あなたの抱擁を 思い出していた
バスに乗りたいのに乗れなくて
冬の陽が暮れるまで歩くつもりもないのに

また言い訳のように夜がきて
見知らぬ朝が訪れるまで
頑ななこころと形容詞をつけて
それでも最終章と添え書きをして
あなたに送る
受け止めてもらえる希みだけは
いつでも棄てない
そんなわたしを知っている
無数の『あなた』が
今夜も読んでいるのは
誰からのメッセージだろう

もしかしたら
投げかけたはずの
自分のフレーズが戻って来て
戸惑ってはいないか
「それで・・・」と言いかけて止めた
あのとき交錯した視線を
思い出そうとして



2004/
Posted at 14:34 in poem | WriteBacks (0) | Edit

空色のスカート 続き

雨は上がったみたい 
今日は木曜だから
あたしは森の外に自転車を出す

空から降り注ぐ
7月の陽射しの中
錆びついたハンドルに手をかける
枯草色のシャツと
薄汚れたジーンズに
履き古したスニーカー
『どこまで行くつもりだ?』

思わず自分に聞きたくなる

『行ける所まで・・・』

笑ってみる


笑顔にならない

空色のスカートの思い出を脱ぎ棄てて
いま走り出す
野ウサギのように
雨上がりの空は迷路ではなく
どこかへ
どこまでも
続いている



2005/07
Posted at 14:04 in poem | WriteBacks (0) | Edit

栗鼠

                昨日は泣いていたけれど 
今日は かぼちゃパンを食べている
客のひいた 古本屋のレジの前にすわり
ポットから紅茶を注いで

パンにはローストされたかぼちゃの種が
トッピングされている
わたしは りすのようにそれをかじりながら
りすになれたらいいのに と少し思う

小さくて 敏捷で
可愛らしくて 凶暴で
そして ほどほどに自由で

走り回って遊び
木の実をかじり
丸くなって眠る

木登りが好きだった子供の頃みたいに
地上から離れて空へも遠い
気に入った枝を見つけるだろう

わたしは小さなりす
風の子守唄に 目を閉じる
Posted at 13:51 in poem | WriteBacks (0) | Edit

Aug 09, 2007

この場所

裁定は ほぼ予測通りに進行した
逢引は見張られているし
パソコンのキィワードは読まれている

わたしには「目眩」という 新たな病態が与えられた
仰向けになろうとすれば必ず 天井や電球がぐるぐる回る
起き上がろうとするのも厄介だ

処方された少量の薬は
とても苦くて まるで効かない
目眩 苦い薬 効果なしという
三点セットで完結していて
きっとそれは繰り返される
笑いたいのに笑えない芝居みたいだ

この芝居小屋から抜け出す方法は あるのだろうか

挑むようにカメラマンを見据えている
写真のあなたはわたしです
手すりにつかまりながら
階段を上り下りして地下鉄を乗り継ぎ
あなたが帰ってきたかった場所は
ここですか?



2005/09
Posted at 07:55 in poem | WriteBacks (0) | Edit

Aug 04, 2007

Posted at 16:28 in poem | WriteBacks (0) | Edit
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