Jun 03, 2008
小川は川へ、川は海へ スコット・オデール
翻訳:柳井薫
一八〇一年、アメリカ合衆国大統領トマス・ジェファーソンの命令による大陸北西部探検のために、二人の陸軍大尉「メリウェザー・ルイス(二九歳)」「ウィリアム・クラーク(三三歳)」が率いる四十五人の探検隊が組織されました。「セントルイス」からロッキー山脈、その先の太平洋へ、川に沿っての七千キロの困難な旅は、ふたたび「セントルイス」に戻ることで終了できました。二人の大尉はこの旅の日誌をこまかくつけて、一八一五年に公式に「探検記」として出版され、人々に驚嘆をもって読まれました。この小説はこれらの史実をもとに書かれたものです。
では、なぜこのような危険な探検が必要だったのでしょうか?当時のアメリカ大陸は、アメリカ合衆国、フランス、イタリア、イギリスが占領していて、合衆国にとっては安心できない状況だったわけです。未知の先住民に対する恐さも当然あったでしょう。ヨーロッパを制覇して、そこで力尽きたフランスだけは占領したルイジアナを合衆国にたった一五〇〇万ドルで手放しました。当時ではルイジアナは合衆国全土よりも広かったということです。
つまり、その時代のアメリカ合衆国は、アメリカ大陸のあまりの広大さ故の未知の世界が恐怖だったのではないか?そこで探検隊が組織されたということではないか?ここに巨大で貪欲な国の成立の出発点があったということでしょうか?
さてこの物語の主人公は、ショショーニ族の十代半ばの少女「サカジャウィア」です。主人公は二人の大尉ではなく、作家「スコット・オデール」は彼女の目を通した小説として書いたわけです。ショショーニ族はミネタリ族の襲撃によって「サカジャウィア」は奴隷として連れていかれます。ミネタリ族の首長の息子「レッド・ホーク」と、部族を渡り歩いているフランス人公易商「シャルボノー」との賭けによって「サカジャウィア」は「シャルボノー」の妻となり、子供を産みます。名前は「ミーコ」。
その時、探検隊に少女は通訳兼ガイドとして参加を要請されます。彼女の産後の休養が済んですぐに彼等は旅立ちます。「サカジャウィア」はふたたび「ショショーニ」の土地へ帰れる希望をここに託したとも言えるでしょう。苦しい長い旅を少女も幼子も生き抜きました。そして「サカジャウィア」と「クラーク大尉」との純粋な恋も芽生えましたが、探検隊にいる黒人の若者の忠告「肌の色の違いは越えることはできない。」という言葉はとても重いものでした。さらに「黒人とインディアンとの違いも越えられない。」と言うのでした。旅の終わり頃に、「サカジャウィア」は子供「ミーコ」とともに、二人だけで隊をひそかに離れ、故郷に帰ります。
アメリカという大国が成立する以前、先住民たちがまだアメリカの残酷な侵略にあう前のお話といえましょう。しかしこうした探検によってアメリカ大陸は徐々に把握されて、残酷な歴史の上についにアメリカという大国ができたのでしょう。
(一九九七年・小峰書店刊)
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