Jun 02, 2006
夜の公園 川上弘美
五月末日、かなり精神的に辛い仕事をなんとかやりすごした。そんなわけで、少し軽い読み物に触れてみたくなった。そこで手にとったのがこの小説でした。読了してからまずは「これは人生の軽い前奏曲にすぎないな。」と、ふっと思った。
ここでの人間関係は三十代半ばの夫婦「リリ」と「幸夫」が軸となっている。この出発点では二人には子供はいない。「リリ」の高校時代からの友人には「春名」がいる。私立の女子高校教師「春名」の恋人は三人、一人は「幸夫」であり、「悟」「遠藤」。「大学受験のための小論文添削」の仕事を一日四時間自宅作業をする「リリ」には「暁」という年下の恋人。「悟」と「暁」は兄弟だったことが物語の途中で判明する。
この近視眼的な人間関係を見ていると、人間の生々しい出会いというものはこの地上では無限に拡がるものではないのだろうと思えてくる。こうした人間世界のなかで、「愛」や「性」や「孤独」が絡みあいながら語られてゆく。この語りはどこに向けられているのだろうか?音のない風や雨のようだった。
「春名」と「悟」の自殺未遂事件。「リリ」の妊娠。父親は「暁」だろう。この事件も嵐のように起こったわけではない。驟雨のようだ。「リリ」は「懐妊」という理由とは関係なく「幸夫」に離婚を申し入れ、独りの生活を得る。この離婚の理由も正体不明。やがて「春名」は三人の男性以外(リリも知らない)と結婚。
「リリ」の出産と「春名」の結婚式がちょうど同時期となる。遠くにいながらこの二人はいつでも共に結ばれていたかのようだった。この二人の友情だけが濃厚な心情として重く心に残るが、女性間の友情はかくあるものかと、女性のわたくしがちょっと驚く。
(二〇〇六年・中央公論社刊)
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