私は種をまく
夜のとばりに種をまく
とうてい芽が出そうもない 深い地底に
その種は すべりこんだかもしれない
あるいは 天空にむけ
思いっきり蹴り上げられたサッカーボールが
天空の彼方で やがて点になったようで
うぶ毛がはえかけたばかりの幼い思考は
先の見えない霧に覆われた樹海に
足を踏み入れたようで
その膨大さ その奥深さ
その輝きの神秘性に
私は一瞬とまどい たちくらむ
容赦なく サラサラとすべりゆく時間の中で
とりつかれた霊媒師のように
精神と肉体を分離して
静寂のなかに埋没する
流れる時間はサラサラと
眠るべき とばりを通り抜け
知らず知らずのうちに魔界の扉をあけ
肉体をけずり 血のよどみを招き
眠りに落ちようとする瞳を
冴えた思考が 妖しい魔力でひき寄せる
それでも 種はやがて地底を這いのぼり
光をめざし
蹴り上げられたサッカーボールは
跳ね返って
さざ波に打ち寄せられた 透明な波打ちぎわで
やがて 誰かにすくい上げられ
心癒すときが訪れるかと
わけもなく呪文のように
ブツブツと ひとりでとなえ
湧き出てくる たわいない言葉の中から
短い羅列を無数に並べて
万人に披露できる舞台の上で
あまたの人の共感を得られることを夢みて
今日も言葉のとりこになる
私は星のトンネルを 加速を上げて疾走する
(2003. 6. 12 第27回 ふくやま文学選奨 入選作品
選者: 橋本福恵 )
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