一本足の ひとつ目傘にも
のっぺらぼうの 小坊主にも
ひゅるひゅる首がのびる女にも
慣れてしまった
明々と照る電灯の下
仏間のユリは もうすっかり
盛りを過ぎた
白い花弁も 黄色い花粉も
惜しげなく
レースの上に落下させて
朝に焚いた線香の香りが
わずかに 襖の隅で充満する
黒光りする柱の陰や 長い廊下の向うから
精霊たちが
今夜も遊びにやってくる
あの 扉の向こう側に
優しい父が入った日から
以前感じた恐怖など すっかり慣れっこで
一つ目傘に冗談を言い
小坊主と肩を叩きあい
首の伸びる女が 隣りで煎餅をぱりぱり食べる
父が 机のむこう側で笑っている
天国は なかなか快適だよ と
精霊たちとコーヒーブレイク
あの世とこの世の境目を
数珠を首にぶらさげて
私は自由に 行き来する
(2003.10.26、中国新聞掲載 詩壇賞受賞作品
選者:北川透)
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