われこそは新島守よ隠岐の海のあらき波かぜ心してふけ 
流さるる人にあらねど隠岐の海のあらき波かぜまなかひに満つ 
  
 遠山路いくへもかすめさらずとてをちかた人のとふもなければ 
うぐひすの遠音にかすむ都万村の白露をおけるおほき筍 
  
 浪間よりおきの湊に入る舟の我ぞこがるる絶えぬ思ひに 
海士なるや島前(だうぜん)のうみ凪ぎはてて幻に見る棚無し小舟 
  
 里とほみきねが神楽の音すみておのれも更くる窓の灯 
かんなぎと神の栄ゆる島にして谷あひごとの杜のともしび 
  
 ことづてむ都までもし誘はればあなしの風にまがふ村雲 
まきむくの山かづらともわれは見む都指したる片雲の風 
  
 おなじくは桐の落葉もふりしけなはらふ人なき秋のまがきに 
見る人もなく山の端をたえだえに美花ひらきたる桐の紫 
  
 蛙なく苅田の池の木綿(ゆふ)だたみ聞かましものは松風の音 
蛙なく海士島山の夕映えに烈しき人もつひに和ぎけむ 
  
 過ぎにける年月さへぞ恨めしき今しもかかる物思ふ身は 
世を思ふゆゑにくやしくあぢきなく胸抉(ゑ)るまでに島は美し 
  
 夕月夜入江に塩や満ちぬらん芦のうら葉のたづのもろ声* 
船小屋によせ来るしほのきらめきて都万(つま)の入江は碧なしたり 
  
とはに隠岐の海を統ぶらむ貴くあらき新島守は遠く燦たり 
  
*以上、本歌九首すべて後鳥羽上皇の「遠島百首」より。   
2003・5月 
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