落とし噺
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落とし噺



ヲゝい、呼んでいるのが聞こえぬか/コリャ、宗匠どちらまで/多々良の浜、松浦の海とは言わないが/ズイと足を延ばしててっかいが峰まで見て来なんしたか/なるほど気持ちよい。うまく褒めれば一杯買わんでもない/それじゃア、お持ちの道具でも褒めますかい/やってごらんな/さすれば、躙り口から入って右に掛かるは羲之と道風の貼り交ぜ、花入れはありゃ常滑の古いところか、茶碗は新掘り出しもんの宋官窯の月白(げっぱく)入りで、茶筅は利休自刃のおりに使った切り出しときたものだ/嘘八百おおきに褒めた/あそこの見世で一杯管を巻かせておくんなせい/もひとつ言ったら柳樽でも諸白(もろはく)でも/では親鸞御上人のすなはち往生す、の意味を聞いておくんなせい/じゃあその祖師西来意は/ソリャちっと違うが。解いてみせましょう。往生は、お砂でも八助でも、スナハチみんな往生なんだから/お前が往生していな。後生のために教えておくが、そんな往生をしろうるりと云うんだ/宗匠、聞いたことがござんせん、何ですか、そのシロは/わたしも初めて口にしたが、しろうるりなんてえものがもしあったとしたら、さしずめお前の云った往生みたいなことを指すんだろ/そりゃまるで、かの宗祇様が問われて解いたという《ちゃんきのもんき》の謎でげしょう/センセイ何と解いた/富士の雪/こころは?/はて、《なんとしても解けぬ》/宗匠と熊五郎、昼酒の微醺のうちに礼(いや)をして別れる。

*謎のたぐいは『醒睡笑』『徒然草』等による。


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