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絵巻 |
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金泥の雲が流線を描いて切れかかると、松の木の緑が顕つ。突き抜けてそそり立つのは丹に塗られた血のような五重塔である。そこにも金泥の雲。やがて衣を被いだ壺装束の女や、稲藁の縄でつないだ犬連れの健児髪の少年たちが、あるいは法螺を担った修験者が、手を翳して遠望するのは、弓やなぐいや長刀を林立させ、緋縅でよろおう、悍馬に跨る武者と、それが警固する牛車の列。めざすは六波羅か福原か。Ohten-Gateに透明な火焔のような水の気が奔り、洛には禁断の舞楽がおののきながら降りてくる。やがて後ろ向きの検非違使のまえの広大な砂州に烏帽子直垂の男が牽かれて宣告が下されようとしている。いままさに下されるところで金泥が懸かり、その切れ目から覗くのは川の色・湖の色。どこやらで鬨の声があがり、鏑矢を先頭におびただしい篠の、羽根の、鏃の驟雨がふりそそぐ。舟合戦のあちこちで、もとどりを切った頭が血煙をあげ、裸の腕や足が曼荼羅みたいにもげている。視点は徐々に近景にあつまり、そびらに矢を立てた老い武者が泣く泣く、一の御子をはるか南へ落としまいらせるところで金泥が懸かる。雲の透き間にはまだ水の色。ただし鴛鴦やかりがねが泳ぎ回って水紋を印す。水紋また金泥、そして黒色に変じた銀の月が皎々と照らすのは蓬生の屋根である。何十年か経っているのだろうか。女は待ちつづけている。供の童子を連れた貴公子が、山川を越え、野を分けてはるばるとやって来るのだ。ひたひたと彼は近づき、馬から下りて、夕顔、常夏、チガヤ、ツルウメモドキが絡まる垣の柴扉をいま開けた……霜を置く下げ髪をふるわせて男の胸に顔をうずめる女の横に、うすずみで「阿波礼」としたためられて、さらに茫茫たる夜の野の果てに目を遣ると、常設展示の小さな加湿器がかすかな音をたてているのがガラス越しに認められる。
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