音楽
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音楽



 メトロノームを110に合わせる。すぐそばの、眉間に懸かる白雲みたいな3種類の音の組み合わせから成る序奏が心のなかの6秒間ほど、示される。このパートは再び出現しない。創生期のアシカビなす幼い神々の幻のように。それからゆっくりと湧出してくるのは、遊弋する鷹の眼から俯瞰した巨大な谷みたいな通奏低音部である。これは建築のうつばりに似てこの世界の構造をほぼ決定するものだ。(egale 平均に)1ダースほどのつややかな水の棒。(colore色合いをもって)メトロノームが180まで上げられる。三拍子の律動が、撓って強靱な竹竿のぶん回しみたいに腹にこたえて絶え間なく、問いと解決をくりかえす。(timbre 響かせて)それはインドとブルガリアの、キルギスと象牙海岸のあいだのどこかにある、そんなものは何処にもない農村でおこなわれる葡萄の収穫祭のよろこびの歌と詞だ。(vivant 生き生きと) 東西に河が流れ、南北に朔風が吹きすぎる、町の外れの遊園地で、夜になっても老婆になっても遊びつづける、哀しくて愉快な、馬鹿で醜くていとおしい女の子が歌う歌。(comme une plainte嘆きのように)じょじょにリタルダンドしたすえに5度と8度の音を細かく鳴動させ、転調したモチーフに新しい表情が現れる。金属に吹かれた蔓草に似た内声部を伴うそれは、いわば冷たい沸騰と透明な混乱のなかに揺らめきあがる構築物、(valenciennes ヴァランシエンヌ産のレースのように繊細に)偉大なバベルの塔みたいに、雲の神殿を割って出現する恐ろしい空の青さにむかって、古い新しい紋章を刷いた旗を飛ばし、装飾音で出来た勲しをはなち、(en dehors 上声部を響かせて timbre)軍靴と金管の絢爛にみちて高くたかく亢進し、( Episode prefigurant le Gibet このエピソードは夜のガスパールの〈絞首台〉を予示している)あらゆる存在と非存在の彩りを暗く輝く天空にはなちつづけ激甚な暴力をことほぎのように浴びながら消滅して果てる。

*(  )内は『ラヴェル ピアノ曲集』(音楽之友社)に付せられたヴラード・ペルルミュテールの指定(岡崎順子註釈・訳)による。


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