妻のための素描
詩作品 目次前頁(私信、Mへ) 次頁(詩作品 目次)
γページShimirin's HomePageUrokocitySiteMap

妻のための素描



わが妻は、おいしい食事と芳醇な酒を愛する
それは、リストランテでも、夕ぐれの焼きとん屋でも同じこと、とびきりの
三つ星をつける幸福と、一つも星のつかない失意の時間の両方を知っている

わが妻は、ほんとうは人間に辛い。オフィーリアのように水に流れて
地上から去ったやさ男が書いた「饗応夫人」みたいに客を迎えるが
彼や彼女をまじまじと見、言葉を聞き、一瞬ののち、寸鉄の形容が彼らをつらぬく

わが妻は、音楽が好き、踊りが好き、お祭りが好き
うすももいろをしたさくらの花の花ざかり、ぼんぼりの灯る宵の並木道で
コップ酒に酔いながら、寂しい先導獣のように、私が歩いてゆくその先をさまよう

私が気に食わないのは、彼女がディズニーランド好きなこと
朝の幸せなしとねが、新鮮で乱暴な掃除機の笞(しもと)でひっくりかえされること
グラハムブレッドにのせるベーコンを、カリカリに焼いて焦がす信念を曲げぬこと
(私が行ってしまったら、すぐに追(つ)いてくると言うこと)

わが妻はまるで猫みたいに、夏は涼しく、冬暖かい場所でなければ居られない
悪心や悪寒はもちろん、ほんのちょっとの痛みでもがまんできないし
あの世なんか少しも信じていないけれど

宣告を下された私のために、わが妻は、恐らく
生木のように自分の肉体を割る八つ裂きの刑(はた)をまえにしても
眉ひとつ動かさない

             
03/4/7


詩作品 目次 前頁(私信、Mへ)次頁 (詩作品 目次)

γページShimirin's HomePageUrokocitySiteMap