わが妻は、おいしい食事と芳醇な酒を愛する 
それは、リストランテでも、夕ぐれの焼きとん屋でも同じこと、とびきりの 
三つ星をつける幸福と、一つも星のつかない失意の時間の両方を知っている 
 
わが妻は、ほんとうは人間に辛い。オフィーリアのように水に流れて 
地上から去ったやさ男が書いた「饗応夫人」みたいに客を迎えるが 
彼や彼女をまじまじと見、言葉を聞き、一瞬ののち、寸鉄の形容が彼らをつらぬく 
 
わが妻は、音楽が好き、踊りが好き、お祭りが好き 
うすももいろをしたさくらの花の花ざかり、ぼんぼりの灯る宵の並木道で 
コップ酒に酔いながら、寂しい先導獣のように、私が歩いてゆくその先をさまよう 
 
私が気に食わないのは、彼女がディズニーランド好きなこと 
朝の幸せなしとねが、新鮮で乱暴な掃除機の笞(しもと)でひっくりかえされること 
グラハムブレッドにのせるベーコンを、カリカリに焼いて焦がす信念を曲げぬこと 
(私が行ってしまったら、すぐに追(つ)いてくると言うこと) 
 
わが妻はまるで猫みたいに、夏は涼しく、冬暖かい場所でなければ居られない 
悪心や悪寒はもちろん、ほんのちょっとの痛みでもがまんできないし 
あの世なんか少しも信じていないけれど 
 
宣告を下された私のために、わが妻は、恐らく 
生木のように自分の肉体を割る八つ裂きの刑(はた)をまえにしても 
眉ひとつ動かさない 
 
              
03/4/7 
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