――撒水車だ。雨を呼ぶために。天になるごとく地にもならせ給え、か。
                              (J・ジョイス) 
  
夜にはとおくまで渇く 
こえもなく犯しかけてくる日ざかりのしたで一回の 
あつい季節が閉ざす巨大な蓋を想っていた 
暗く充たしてゆく地の上に 
  
斧のように振りあげられたまま 
世界はとまる 
眼差しの周囲に近づく血液とひでり 
そのくらがりから眺めている 
襲うもののない路上を 
視えない水にしぶきながら巨きな破船が通りすぎるとき 
  
無言で行きあたる正午(まひる)の人間から 
ふいにランプよりも夥しい影を浴びせかけられる 
(どんな海が視える?) 
水のない通路に向かい 
わたしから 
ゆっくりと壊れて遠ざかる貌が 
しばらくは八月の 
炎える穴のおくで揺らいでいる 
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