昏れる季節のための散文
倉田良成詩集 旱魃の想い出から 一九七〇〜一九七五 目次前頁(帰還) 次頁(旱魃の想い出から)
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昏れる季節のための散文



 やがて僕たちも終わる 僕たちの歩きだしたところから正確にはじまるゆうひ 僕たちの署名のない脳裏 視角は鳥のように触れてとびさる そこから僕たちはゆっくりと染まってゆく その秋を誰が言うのだろうか 垂れこめた空のしたで季節の不思議な線条を視る 雨! 僕たちはいま何に洗われている? もの言うために ひそかな文字を灼いている影の街 知らない国に居住する旅行者のように暗い それがまるで僕たちであるかのように 歩き回るための閉じられた天候を持った
(あらゆる窓がみしらぬひとを映している) 予感にはすべて葉土のように覆われる過去をかんじていた たぶんひとつの過失があるのだろう 理由は誰のものでもなくいまは言わない 冬につくられた果物へ黒いリボンをむすぶ 僕たちには多くの喪の窓にむかってゆうぐれのように残溜しているまなざしを殺す仕事が与えられている 衣裳のように僕たちは夜を着る 僕たちが残してしまったものがたくさんの説話をつくる 独りでいることはそれで全部だ 想像のなかで僕たちが他人を支払う そのたびにみしらぬひとが倒される 鈍器のように匿された窓の内側で僕たちは けっして目覚めることのない者の衝撃を とりもどさなくてはいけない
 僕たちの表象は苛酷に昏れてゆくまひる 刷りとられたいちまいの空 少なくともそこで僕たちは幸福だ 僕たちの傍らで奇怪に育ってゆく世界の絵のために睡眠する そのほかのもののために僕たちの窓は開けない 僕たちの身体に触れる筆致で視えない世界がはげしくなってゆく 僕たちを受信するための粗い網 僕たちは余白を買いにゆこう 僕たちの深い伝染がつたえられる 零時の来ない夜のなかでみんながそれを聴く 戦慄をかくしている禁止のことばのように 僕たちは僕たちをつくる子供とそこで出遇う


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