Jul 09, 2019
韻律磁場へ!
Quattro朗読会
第2回
谷合吉重
細田傳造
たなかあきみつ
有働 薫
ゲスト 江夏名枝
2019年6月29日(土)
PM3時半開場4時開演
渋谷区千駄ヶ谷1-5-1
時遊空間
千駄ヶ谷駅徒歩5分
チケット1000円
問合09018586357
クアトロ朗読会第2回 2019年6月29日(土)4時~6時 会計報告 参加者14名 出演者5名 チケット1000円x14=14000円 時遊空間スタジオレンタル費割引2時間 6000円 14000円-6000円=8000円(純利益) 8000円÷5人=1600円(各人収入) 他に 案内はがき 100枚 (たなかさん作成) プログラム 50枚 (谷合さん作成) は、実費各人支払済み。 ポスター2枚 谷合さん作成(無料) 当日受付 江夏名枝さん(無料) 以上会計は有働が作成しました。 納め会 7月13日(土) 新宿中村屋にて4時半~
カッサツィオーネ ――モーツァルトのため の十一の野外用組曲 有働 薫 二〇一九年六月二九日(土)韻律磁場へ!第二回 朗読テキスト カッサツィオーネ 第一曲 色とりどりの おもちゃのような屋根 両手の人差指と親指の つま先を合わせてつくる三角形 の中の丘の稜線を 針金の人が歩いていく 遠い 森の中に 大きなガラスの温室がある 白いカラスが 飼われている カッサツィオーネ 第二曲 濡れて乾いて わたしたちは植物になろう 脳髄の奥から 自意識と言葉を 削除して 開き満ちる アイリスの群落になる いのちを燃やして 干上がっていく 大地と 運命を共にする カッサツィオーネ 第三曲 ゴールデンサマー ボーンチャイナのカップに 朝の三角形のティーバッグを浸す 水中花ふうに 芳香がゆっくりと 開いてくる やや憂いげに 神のいない教会 影が映らない食卓 花の終わった梅の木で雀たちが騒ぐ 大雨になりそうだ カッサツィオーネ 第四曲 D‐DAYの七十五周年記念式典が ノルマンディの海岸で行われ 九十五歳の退役軍人が語る 誰も戦いたくはなかった 私たちは英雄ではない 一九四四年六月六日 この海岸から戻ってこなかった 人たちこそ英雄だ 私たちもやがて別の世界に移って けっして年を取らない彼らと再会し あの日のことを語り合うだろう カッサツィオーネ 第五曲 友人の絵の展覧会は来週 豹の胴体は真っ二つに胴切りにされ 揺れる尻尾を生臭いあごが追跡する 二匹いるのね いいえ一周して一匹です ミノタウロスの長柄の斧がぎらっと光る 日傘の陰から窺う老婆 獲物の数は何匹か 窓から緑が流れ込んで 豹たちははね飛ばされ メールストレームの渦に呑み込まれて行く カッサツィオーネ 第六曲 センノキの根元に大雨を避けて 夕方のバスを待っている バス停に並ぶ勤め帰りの列の最後尾 二〇分経ち きいろいタイムテーブルの蒼い罫線の上に 細かい数字がぎっしり並ぶ センノキ別名ハリギリの葉群を透かして 夕陽が駅前商店街の 店の看板を発火させる みずほ銀行の大きな縦長の看板 銀のサンダルで踊る カッサツィオーネ 第七曲 ある夜 夢の中で 天安門広場にプラタナスの街路樹が 幾何学的に植栽され 根元に緑色のベンチが置かれていた なぜそんな夢を見たのか いぜん北京を旅行したとき 天安門広場で 街灯の柱のひとすじの影の上に 雀になって一列に並んだ記憶がある 五月の陽射しは 金槌で殴られたように痛かった カッサツィオーネ 第八曲 電信柱の上にのっているあの筒 柱上変圧器の 蓋をあけてみたことがありますか 中には電圧を下げる機器と 電気を通さない蒼い油が 美しく入っていて あのトランスフォーマー柱上変圧器は 三〇年使えます 明け方 蓋の上にとまったカラスが 行かないでと鳴いています カッサツィオーネ 第九曲 天の川銀河の ブラックホールを取り囲んで 冷たいガスが 円盤状に 回っている ブラックホールが 氷のガスをのみ込んでいるのを チリの砂漠の 宇宙望遠鏡がとらえた ブラックホールの 中は見えない カッサツィオーネ 第十曲 蒼い風が窓に揺れ k576 最後のソナタ そこから大砂走りの下山に入る 足を取られ 膝が笑う 日本やカナダのプラスティック ごみを積んだ大型コンテナ船が クアラルンプールの港を出る 永い復路である ヨーロッパ文明という山の 頂上に吹く風 金木犀がつかのまの緑を盛り上げる カッサツィオーネ 第十一曲終曲 カッサンドラー トロイ戦争の敗戦国の王女 アテネ像にしがみついたまま戦勝国の男に強姦された ヒロシマの銀行の石段に若いからだを焼き付けられ 彼女の予見の才能がランボーの千里眼と重なる アポロンに愛されるほどの美貌と 炎と競う聡明 「いくえにも」と母は何度も言った 狼少女の緑に燃える眼を見据えて バス停の向かいの家の大谷石の塀の上に 泰山木の真っ白な花が柑橘系の芳香を拡散している * カッサツィオーネはモーツアルトら一八世紀の音楽家たちが盛んに用いた音楽形式で、野外の集りで演奏された。ディベルティメント、喜遊曲。ゲンナジイ・アイギ たなかあきみつ訳『アイギ詩集』106頁参照。
クアトロ朗読会第2回 2019年6月29日(土)4時~6時 会計報告 参加者14名 出演者5名 チケット1000円x14=14000円 時遊空間スタジオレンタル費割引2時間 6000円 14000円-6000円=8000円(純利益) 8000円÷5人=1600円(各人収入) 他に 案内はがき 100枚 (たなかさん作成) プログラム 50枚 (谷合さん作成) は、実費各人支払済み。 ポスター2枚 谷合さん作成(無料) 当日受付 江夏名枝さん(無料) 以上会計は有働が作成しました。 納め会 7月13日(土) 新宿中村屋にて4時半~
カッサツィオーネ ――モーツァルトのため の十一の野外用組曲 有働 薫 二〇一九年六月二九日(土)韻律磁場へ!第二回 朗読テキスト カッサツィオーネ 第一曲 色とりどりの おもちゃのような屋根 両手の人差指と親指の つま先を合わせてつくる三角形 の中の丘の稜線を 針金の人が歩いていく 遠い 森の中に 大きなガラスの温室がある 白いカラスが 飼われている カッサツィオーネ 第二曲 濡れて乾いて わたしたちは植物になろう 脳髄の奥から 自意識と言葉を 削除して 開き満ちる アイリスの群落になる いのちを燃やして 干上がっていく 大地と 運命を共にする カッサツィオーネ 第三曲 ゴールデンサマー ボーンチャイナのカップに 朝の三角形のティーバッグを浸す 水中花ふうに 芳香がゆっくりと 開いてくる やや憂いげに 神のいない教会 影が映らない食卓 花の終わった梅の木で雀たちが騒ぐ 大雨になりそうだ カッサツィオーネ 第四曲 D‐DAYの七十五周年記念式典が ノルマンディの海岸で行われ 九十五歳の退役軍人が語る 誰も戦いたくはなかった 私たちは英雄ではない 一九四四年六月六日 この海岸から戻ってこなかった 人たちこそ英雄だ 私たちもやがて別の世界に移って けっして年を取らない彼らと再会し あの日のことを語り合うだろう カッサツィオーネ 第五曲 友人の絵の展覧会は来週 豹の胴体は真っ二つに胴切りにされ 揺れる尻尾を生臭いあごが追跡する 二匹いるのね いいえ一周して一匹です ミノタウロスの長柄の斧がぎらっと光る 日傘の陰から窺う老婆 獲物の数は何匹か 窓から緑が流れ込んで 豹たちははね飛ばされ メールストレームの渦に呑み込まれて行く カッサツィオーネ 第六曲 センノキの根元に大雨を避けて 夕方のバスを待っている バス停に並ぶ勤め帰りの列の最後尾 二〇分経ち きいろいタイムテーブルの蒼い罫線の上に 細かい数字がぎっしり並ぶ センノキ別名ハリギリの葉群を透かして 夕陽が駅前商店街の 店の看板を発火させる みずほ銀行の大きな縦長の看板 銀のサンダルで踊る カッサツィオーネ 第七曲 ある夜 夢の中で 天安門広場にプラタナスの街路樹が 幾何学的に植栽され 根元に緑色のベンチが置かれていた なぜそんな夢を見たのか いぜん北京を旅行したとき 天安門広場で 街灯の柱のひとすじの影の上に 雀になって一列に並んだ記憶がある 五月の陽射しは 金槌で殴られたように痛かった カッサツィオーネ 第八曲 電信柱の上にのっているあの筒 柱上変圧器の 蓋をあけてみたことがありますか 中には電圧を下げる機器と 電気を通さない蒼い油が 美しく入っていて あのトランスフォーマー柱上変圧器は 三〇年使えます 明け方 蓋の上にとまったカラスが 行かないでと鳴いています カッサツィオーネ 第九曲 天の川銀河の ブラックホールを取り囲んで 冷たいガスが 円盤状に 回っている ブラックホールが 氷のガスをのみ込んでいるのを チリの砂漠の 宇宙望遠鏡がとらえた ブラックホールの 中は見えない カッサツィオーネ 第十曲 蒼い風が窓に揺れ k576 最後のソナタ そこから大砂走りの下山に入る 足を取られ 膝が笑う 日本やカナダのプラスティック ごみを積んだ大型コンテナ船が クアラルンプールの港を出る 永い復路である ヨーロッパ文明という山の 頂上に吹く風 金木犀がつかのまの緑を盛り上げる カッサツィオーネ 第十一曲終曲 カッサンドラー トロイ戦争の敗戦国の王女 アテネ像にしがみついたまま戦勝国の男に強姦された ヒロシマの銀行の石段に若いからだを焼き付けられ 彼女の予見の才能がランボーの千里眼と重なる アポロンに愛されるほどの美貌と 炎と競う聡明 「いくえにも」と母は何度も言った 狼少女の緑に燃える眼を見据えて バス停の向かいの家の大谷石の塀の上に 泰山木の真っ白な花が柑橘系の芳香を拡散している * カッサツィオーネはモーツアルトら一八世紀の音楽家たちが盛んに用いた音楽形式で、野外の集りで演奏された。ディベルティメント、喜遊曲。ゲンナジイ・アイギ たなかあきみつ訳『アイギ詩集』106頁参照。
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