Aug 22, 2014
モーツァルト クラリネット協奏曲k622
『魔笛』k620と未完の『レクイエム』k626のあいだに挟まる、死のほぼ2ヶ月前の10月初めの完成。そんなことは微塵もにおわせぬふくよかで成熟した、それでいて軽妙で聡明な音楽。私の大好きなクラリネット五重奏曲k581が清新で透明感に満ちているのに比べると、大人の人間の息遣いが感じられる。柔らかな立体感。モーツァルトの音楽の到達点、ということは、ランドンに言わせれば、《かつて誰も到達できなかったヨーロッパ文明の頂点》に位置する音楽である。YouTubeの動画で聴く。クラリネットといえばザビーネ・マイヤーをまず思い、その動画もあるのだが、若い女性奏者シャロン・カムとプラーグのフィルハーモニック・オーケストラ、指揮マンフレッド・ホネックで聴く。素直で清潔な音がよい。モーツァルトは優れた演奏者に出会うたびに、すばらしい名曲を生み出していった音楽家で、このきょくもそうだがその最高の例が、妻が湯治に出かけていた温泉場の教会合唱指揮者のために作曲したたった46小節しかない傑作『アヴェ・ヴェルム・コルプス』だろう。最初は漠然とした印象だが、くりかえし聴いているうちに涙が出てくる。モーツァルトの魂をすぐそばで感じ取る。モーツアルトの時空超越性。クラリネット奏者アントン・シュタードラーはバセットシステムを開発した名手。彼につきっきりでクラリネットの奏法を工夫したらしい。がその工夫の跡など微塵もなく(死の影が微塵もないように)自然な優雅さに満ちているのがおどろき。30分間の至福。当分モーツアルトの音楽から出られそうもない。
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