May 21, 2008
マルク・コベール『小骨列島』
コベールさんから手紙が来たのは2月頃だった。春の休みに日本に行くとあった。4月に入って早々、ある日電話があった。えっつ、もう日本に居るの? けっきょく彼は桜の季節の間日本を旅し、4月29日、日本では昭和の日の祝日に帰国した。コベールさんと2度会った。一度目は新宿西口の新幹線の安売り切符を買いに行き(たいして安くない)、フランス図書でフランスからの輸入本をあさり、夜は三宿の天童さんのドゴンのほえ声を聴きに行き、飲み会でわいわい飲んだ。また別の日にはふらんす堂の山岡社長に会いに仙川へ行き、夕飯をご馳走になった。山岡さんは超多忙の業務を抜け出て付き合ってくださった。ふらんす堂のホームページの山岡さんのブログにその折の親子みたいなツーショットをアップしてくださってある。『小骨列島』は奇妙な小説である。尾形刑事が究明する事件簿なのだが、関西地方に今も残る竹林にはよく雑誌が捨ててある、そのわけを解き明かす、とか、恋人の遺灰を火鉢に活けて床の間に上げるとか。コベールさんは40代の端正な顔立ちの勤勉な学者だが、彼のライフワークは人間は自己のエロスをどのように表現してきたか、で、このテーマをワールドワイド的に探求、つまり、比較文学的な研究のテーマにしている。彼はシュールレアリズムの側の文学者で、あの、大潮のごとき文学運動は終わったとはいえ、このテーマはいぜんとして個々の学者のもとで掘り起こされ続けている。そのための雑誌も創刊し、今度の日本旅行でキャンペーンしたかったのだが、少々まだ無理のようだ。わたしは学生時代に机上で追っかけていたテーマが、生身の人間の姿を取って目の前に現れていることに不思議な感動を覚えている。
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