Jun 29, 2024

リザードとの会話

b1

アイスが建物の中に案内されると、
リザードが待っていた。

おお来たかね。


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はるばる、ここまで来てもらって
ご足労をかけたな。
我々は水中はちょっと苦手なんだ。
ここではマスクを取って大丈夫だよ。


あなたがリザードね。
なぜ私がここに来るのを知ってたの?
とアイスが言った。


ふむ。もっともな質問だな。
せっかくだから詳しくわけを話してやろう。
この都は大昔に、我々地底に住むレプティリアンと、
地上の魔族が仲良く暮らしていた時代に、
協力して作り上げたものだ。
しかし今では見る影もなく廃墟となってしまっているがね。
ただここには我々にとって大切なものが
いくつか残されている。
それで侵入者を知らせる仕組みになっているのさ。

昨日、君たちは集落の遺跡の調査に来て、
地下室へ通じる階段を見つけただろう。
その時仕掛けが作動して我々に異変を知らせた。
私が来てみると、君たちは遺跡の前の広場で
野営していた。昨日の夜のことだ。
そこで私は君たちの言うところの
光学迷彩服を着込んで
すぐそばで君たちの会話を聞いていたんだよ。
君が水槽を調べたいって言ってたから、
待っていたんだ。


あなたはここに住んでいるの?
とアイスが訊いた。

ここには普段誰も来ないよ。
我々は南極の地底や月の裏側にいる。
だが距離は問題じゃない。
移動手段があるんだ。

それってもしかして鏡の扉のことね。
マークの集落に住む魔術師フラハが、
古代の魔族の人々は鏡の扉を使って
いろんな場所と行き来していたっていう
伝承があるって言っていたわ。

なかなか鋭いな。
鏡の扉は魔族の持つ魔力で生まれるが、
我々も相似した科学技術を持っていた。
大昔には協力しあって技法を高めあったんだ。
我々の月の扉を見てみるかね。


b3

リザードは廃墟の一室にアイスを案内した。
ここも見えないバリアで守られているから、
マスクの必要はないよ。
とリザードが言っている。


そんな共存共栄の場であった都が
水没するなんて、何が起きたの?
とアイスが聞いた。

元はと言えば、我々の仲間同士で起きた戦いなんだよ。
その結果ここに住んでいた魔族たちを
巻き込んでしまったんだ。
ここは我々の首都ではなかったけれど、
威嚇と嫌がらせのために水没されられたんだ。
魔族たちのほとんどは、
鏡の扉を使って異世界に移住していった。
追跡を避けるために扉は消滅し行方はわからない。
地上に残ったわずかな魔族だけが、
戦争の終結まで持ち堪えていたが、
平和になってリーダーだった魔術師フミコが死ぬと、
彼らもやがて四散していった。


b4

あなたはなんでも知ってるのね。
まるで大昔からずっと生きていたみたい。
グリーンマンっていう
不思議な緑の生き物のこともご存知?

私は長寿というより、
何度も再生を繰り返しているだけなのだよ。
グリーンマンは特別な存在でね。
遺跡の近くで奇妙な動植物や
知能の高いゴリラやチンパンジーが生まれるのは、
一帯にかけられた魔術のせいなんだが、
それをかけたフミコという魔術師が
特別に可愛がっていた、植物と人間が融合した
不死に近い生き物だ。
あれには鏡の扉を使って三つの遺跡を行き来できる
呪力と呪文をフミコが授けたから、
どこにでも出没するぞ。


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ジャングルでリンリンという名のチンパンジーに出会ったら、
グリーンマンのことを聞いてみるがいい。
そいつならいつも近くで暮らしているから、
グリーンマンをよく知っているはずだ。
そのリンリンから聞いたのだが、
フミコに可愛がられていたグリーンマンは、
ずっとフミコの言いつけを守り、
今もフミコの蘇りを願っているという。
思えば哀れな話ではある。
白骨化してしまうと我々の再生技術でもそれは難しい。
ところが魔族の中にはそれができるものがいる。
我々にとっても彼らの魔術というのは深淵なものなのだよ。


b6

こんな形で魔族のことを知る人間に接触できたのも
何かの縁かもしれないな。
私が手助けするというのは協定違反なんだが。

そういうとリザードは立ち上がり、
壁に向かって何か操作をした。
すると壁のプレートに文字が浮かび上がった。

そこには、蘇生に使われる呪文が書かれている。
魔族の使う呪文の研究のために、
フミコを弔った魔族から我々が聞き取ったものだ。
もちろん彼らもその呪文を唱えて
フミコの蘇生を試みたがうまくいかなかった。
フミコを甦らせるほどの呪力を持った魔術師は、
もう集落にはいなかったのだよ。
書き留めてそんな魔術師がいれば教えてやればいい。


b7

なに、書くものをもっていないのか。
だったらこのカメ新聞をやろう。
そこに書き留めておけばいい。
なに、筆記用具も持っていないのか。
だったらサインペンを貸してやろう。


b8

おお、もうそろそろおやつの時間だな。
帰らないと。
私もあまり遅くなると佳奈たちが心配するので、
帰らないと。

登り階段までは遠い。
外で待っているマービーに
送ってもらうといいだろう。

あ、最後に。あのマービーっていうのはなんなの?

水没した環境は変えることができなかったが、
戦争が終わり、都の喪失を惜しむ声もあり、
せめて都の一部を再興しようという計画があった。
フミコもまだ生きていて、
彼女の魔法と我々の力である程度環境を変えたんだ。
それも大昔の話だが、
こんなバリアのある建物が残っていたり、
上方から光が差し込んで
水中が明るいのはそのせいだよ。
フミコが亡くなり、我々も手を引いて、
計画は中断してしまったが、その名残は残っている。
マービーに案内してもらうといい。
マービーは、その後で生まれた。
多分魔法の影響で生まれたグリーンマンのような
人と魚の融合した変異種なのだろう。
普段なにをしてるのかよく知らないが、
気のいい娘で、水が苦手な我々は、
ここに来た時に世話になっているんだ。


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リザードは何やら呪文を唱えて
月の扉の向こうに消えていった。


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アイスがマービーに話すと、
マービーは、
じゃあ農園でも見てみる?
と言った。


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手入れはほとんどしてないのよ。
ところで、
人魚っていうとロマンがあるけど、
半魚人っていうと怖いのは何故かしら。
などと話している。


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アイスは階段の見える場所まで
マービーに送ってもらい、
水没した都を後にしたのだった。



解説)
続きます。

リザード=レプテュリアンについて。
リザードと名前をつけたのは今回が初めてですが、
リザードは、レプティリアン(トカゲ人間)という名称で、
これまで何度か登場しています。

レプティリアンが、
初めて登場したのは、2022年のハロウィーンで、
トカゲ人間の仮装をした鷲尾翠に
仲間だと思って声をかけたのが最初です。
2022年10月8日「コスプレの愉しみ そのなな」
その後、鷲尾翠を尾行したレプティリアンは、
探偵事務所に現れます。
2022年10月11日「お祭りの日々」
この時これまでの人類との関わりを話しています。
2022年10月12日「お祭りの日々 そのに」。

リザードが探偵事務所に探し物の依頼をしたのは、
2023年1月28日「探し物の依頼と春節の踊り」で、
見つけてもらってお礼をした話は、
2023年2月9日「新聞と帽子のお礼など」
に出てきます。

リザードとアイスはハロウィーンの広場で、
すれ違っている可能性がありますが、
二人とも覚えていないのでした。
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