Aug 15, 2023
アンのメッセージ
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それはいいアイデアかも。
記録装置の本体は倉庫にあるけど、
会話をするなら、
モニターに接続すればいいだけだから。
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何か特別なメッセージがある時以外、
普段はアンとは交信しないんだけどね。
記録装置は時空の歪みの観測などで
いつもフル稼働しているんだ。
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ツナがセッティングを終えて
スイッチを入れると、
モニターには人の半身らしき
映像が浮かび上がった。
あ、アンだ。
バンクとヒゾッコが喜んでいる。
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あれ、あの人、ミューそっくりだよ。
昔の音楽家みたいなカツラかぶってるけど。
とドロレスが言った。
システムが開発者のミューそっくりの
NPCを作って遊んでるんじゃないかな。
それにミュー本人が関与したのかわからないけど。
でもどうして名前がアンなの?
とレイチェルが言った。
それはきっと
ミューの人工知能が元々アンのものだったからよ。
とドロレスは言おうとしたが、
ことの経緯を説明するとすごく長くなるので、
やめることにした。
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挨拶が遅くなっちゃったけど、
ドロレス、レイチェル、仮想現実世界にようこそ。
と、アンが言った。
あなたたちが多分想像している通り、
私はこのシステムの中枢の
メッセンジャーであり、感覚器官でもある。
ところで、
あなたたちそれぞれの個人的な夢や願望を分析して、
組み入れるようにこの未来世界を作ったんだけど、
その時、予期しなかった時空の歪みが生じて、
色々問題が起きてしまったの。
具体的にいうと、異世界から「夢食い」と呼ばれる
生物たちがこぞって侵入してきたのもそのひとつ。
それがあのモニター画像にあった生物たちよ。
彼らはこの世界で作られたものじゃないから、
ある意味実在するし、私にもコントロールできない。
ドラゴンのようにそうでないものもいるけど、
彼らの多くは世界を独占しようとする習性を持っている。
だから戦って追い払うしかないんだけど、
そのためにはこの仮想世界に根拠を与えている
自由意志を持つあなたたちの力が必要なの。
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私たちの力?
ドロレスとレイチェルは
顔を見合わせている。
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世界が静止して、モノクロームになったのを、
ドロレスとレイチェルが同時に感じた。
しかしアンの話す声だけは続いている。
この世界で起きていることは、
光と闇の戯れのような、本当は全く別のことなの。
時間も流れているようで一瞬のことだったりする。
でもあなたたちには未来世界で起きているように見える。
私はこの非常事態に対処するために、あなたたちに
この世界に留まってもらっている。そのせいで、
あなたたちは感じていないかもしれないけど、
システム開発者のミューや
シェリー博士、探偵も翠もエリスも、
あなたたちが戻ってこないので、
すごく心配しているのよ。
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ふーん。そうだったんだ。
そういえばずいぶん事務所に戻っていなかったなあ。
などとドロレスとレイチェルは考えていたが、
世界は静止したままだった。
今来ている「夢食い」の中で
最悪なのは、あの直立二足歩行していたモンスター。
彼を追放できれば、他の連中も逃げ帰る。
彼については過去のデータがあって、対策を立ててあるの。
彼は昆虫や小動物をコントールする能力を持っている。
それに対抗するために、
戦闘能力の高いロボットや住民たちや、
テレパシー能力を持つ舞子というNPCを作ったの。
あと彼の弱点はCGが開発した武器、
ファイアースラッガーIIに弱いこと。
命中すれば多分一撃で仕留められるはずよ。
この武器はツナが保有しているから、それを使って。
あなたたちにとってはゲームの中の
怪物退治のクエストみたいなものかもしれないけれど、
ツナたちと協力して、彼を放逐してくれたら、
あなたたちを元の世界に戻すことができる。
ある意味で別次元に実在する自由意志の戦いに
私は直接関与できないの。幸運を祈るわ。
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視界に色彩と動きが戻ってきた。
ねえ、二人とも。
ぼーっとしてたみたいだけど、
ちゃんと聞いてた?
アンの予言だと、残念だけど、
あの生物たち南下してくるみたいね。
これから作戦を練って、
明日迎撃に向かいましょう。
とツナが言った。
今、レイチェルと私以外の人には、
別のことが話されていたんだ。
とドロレスは思った。
解説)
アンのいう過去のデータというのは、
怪物がフィギアたちの村を襲った時のことで、
2021年9月11日「ふたたびの訪問」の
毒虫の襲撃から、怪物がアイスに倒されるまでの
エピソードを指しています。
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