Aug 20, 2022
魔術劇場で
ようこそ、魔術劇場へ。
ハリーさんがお待ちです。
おおマーリン、久しぶりだね。
ハリー。その顔立ち、昔と変わらないね。
変身するにも程があるぞ。
おや、いつもお美しいカーミラも。
それにこのお嬢さんは。
変身しているがヴィヴィアンだよ。
この娘に会いにきたんだろう。
今君の噂をしていたところだったんだ。
さあ、ちょっと模様換えをして。
とハリーがいうと、椅子の配置が変わり始めた。
何年ぶりかな。
カーミラとの結婚式以来だったかな。
久しぶりに君の噂を聞いたと思ったら、
過激派組織の首領だとは驚いたよ。
あれは誤解だよ。彼らがそう喧伝してるだけ。
君たち夫婦は別れたって聞いてたけど。
そっちの噂も誤解だ。
ただずっと別居状態だったのは確かだよ。
私はこの魔術劇場で世界中を巡っていて。
そのようだね。
この建物は我々の若い頃の魔法陣の研究の
成果のようだが見事なものだ。
あなたがマーリン。
不躾ですけど、
あなたが私の実のお父さん、
という噂は本当なんですか。
マーリンは、
質問を予期していたかように、
ヴィヴィアンを見つめて、
うん。それは本当のことだよ。
と言った。
君の母親はD伯爵の親族でね。
君を産んでしばらくして亡くなってしまった。
当時魔族とヴァンパイアの女性との
婚姻は掟で固く禁じられていて、
生まれた子供にも危害が及ぶ恐れがあった。
そこで私たちは夫婦で相談して、
ヴァンパイア族の私生児として、
しばらく孤児院に預けることにしたんだ。
頃合いを見て引き取るつもりでね。
しかし妻は亡くなってしまい。
その役目を偶然、
身寄りのないヴァンパイア族の子供を
引き取ろうと探していた
私たち夫婦が担ったということか。
とハリーが言った。
カーミラは
親密そうな二人の表情を見比べて、
本当に偶然だったのかしら、
と、ふと思ったが黙っていた。
D伯爵の身内だったなんて、
私の実のお母さんって、
すごいエリート階級だったんだね。
とヴィヴィアンが言った。
あなたの感想、そこなの、と言われてる。
今の話、全て納得したわけじゃないけど、
大まかな事情がわかってすっきりしたわ。
みんなで想像してたみたいに、マーリンさんは、
私を強引に引き取りに来たわけじゃない
みたいだし。
そういう噂も流れていたようだが。
と言って、マーリンがマントの中を
探ると、スーツケースが現れた。
実は頼みがあってね。
君がイギリスで起こした吸血事件を知った
一部のヴァンパイアの過激派組織が、
君が昼間でも活動できる新種のヴァンパイアだと知って、
君を是非グループに迎え入れたいと言い出してる。
その組織、あなたが首謀者だって。
それは私の魔力を利用したい彼らの宣伝なんだ。
私は彼らに同情はしているが、
組織のボスを引き受けるつもりはない。
私は純粋な魔族だし。だが君は。
ヴァンパイアの私には、
その資格があるっていうことね。
でも答えはノー。
人間の血を吸うことを協定で禁じられている
彼らの境遇にはすごく同情してるけど、
ずっと考えた結果、結論を出したの。
私、最近はハリーの調合した薬を飲んで、
血を吸わなくても平気な体になりつつあるのよ。
そういうだろうと思っていたよ。
それで頼み事なんだが、
その前に。
と言って、マーリンは杖をかざした。
薄い煙が立ち上ると、
セリアの外見が消えて、
ヴィヴィアンの本当の姿が現れた。
ハリーと同じ魔法が使えるのね。
とヴィヴィアンが言った。
素顔をみると、
君はお母さんにそっくりだな。
とマーリンは
感に堪えぬ面持ちで言った。
解説)
今年の4月半ば(12日)に、
ハリーの魔術劇場が出現して、
5月半ば(17日)にハリーの妻カーミラと、
養女のヴィヴィアンがやってきて以来、
ヴィヴィアンの実の父親との噂があるマーリンが
会いに来るかも知れない、という
話題が何度か上がっていましたが、
ようやく実現しました。
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