Apr 16, 2022
春たけなわの頃 そのご
では別のあなたが暮らす町へご案内しましょう。
でもその前に注意をいくつか。
そこは今のあなたが暮らす世界とそっくりなのですが、
あくまでも別の世界なので、あなたが混乱しないように
この青いサングラスを通して見られるような世界にします。
それはまあ世界をそれなりの色眼鏡でみるということです。
もっとも大抵の場合人はそうした色眼鏡を自分なりに作り上げ、
フィルター越しに世間を見ているものです。
真実というものはあまりに眩しすぎるので。
そういうとハリーの眼鏡の縁がきらりと光った。
もう一つは、あなたの訪問は別世界の秩序を乱したり、
別人のあなたを驚かせたりするのが目的ではないので、
あなたには、姿を変えてもらいます。
セリア、おいで。
この子があなたの分身になります。
何かご質問は?
どうやったら戻って来られるんですか。
あそこの鏡のドア、私は「どこにもドア」と呼んでいますが、
そのドアからここに戻って来られますよ。
別世界の入り口もあのドアからです。
では、ボンビアッジョ。
ルビーがドアを潜り抜けると、
そこには見慣れた
ベーカリー前の風景が広がっていた。
しかし世界的全体に青いフィルターが
かかっているようだ。
私って、こんな姿なのね。
リタがいたので話しかけてみる。
え、あなた誰だっけ?
ルビーって。
ルビーなら、そこで
観葉植物の手入れしてるよ。
同じ名前なの?
すぐそばのテーブルの脇に
別世界のルビーがかがみ込んでいた。
この枯葉とって。
などという自分の声が聞こえる。
髪型や顔立ちが
微妙に違うけれど。
あれは私だ、とルビーは思った。
あら、こんにちわ。
何かごよう?
と別世界のルビーは言った。
えーっと、ちょっとお話がしたいんですが。
というと。
あ、雲行きが怪しいから、これから急いで
洗濯物取り込まなくちゃならないの、
すぐ済むから、それでもよかったら待ってて。
と言って別世界のルビーはベランダに
急ぎ足で向かっていった。
解説)
別世界のルビーは
なんだか働き者のようです。
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