Mar 17, 2022

春めく日々 そのはち

b1

アンの頭は元の位置で静止した。
しばらくの沈黙ののち、

ゴ心配ナク。
濾過機能ガ作動シマシタノデ。
とアンはいった。

それはよかった。
一時はどうなることかと心配したよ。

変化といえば、
アンのセリフが漢字まじりになっていたが、
その変化には誰も気がつきようもなかった。


b2

ドロレスサン、
先ダッテハ失礼シマシタ。
認知レベルガ低下シテイタノデ、
アナタガロボットデアルコトガ
ワカラナクテ。
とアンはいった。


b3

わかってもらえたのね。
わたしたち、みかけは違うけど、
もともとは同じ研究所にいた
バトラー博士とシェリー博士によって
開発されたモデルを基礎につくられているの。
それから博士たちは別の道を歩んだんだけど、
水をエネルギー源とする仕組みは同じ。


b4

この世界で私たちだけが。
それはちがうよ。
とジェイソンがいった。

アンはもう分かっていると思うけど、
僕もふつうの人間じゃないんだ。


b5

そういって、ジェイソンは
去年の秋にルビーからもらった
手袋の片方をぬいでみせた。

僕はね。骸骨標本なんだ。
ドロレスは驚愕して、
あなたもロボットだったのね。
といった。
そうじゃなくて。


b6

そのとき、ルビーがやってきた。

ジェイソン。
駄目でしょ手袋脱いじゃ。


b7

ジェイソンはあわてて
手袋をもとにもどした。

みんなに怪しまれるから、
っていったでしょ。
ごめんなさい。

ルビーは、気をつけてね。
といいのこすと立ち去っていった。


b8

どうなってるの?
あのひと、あなたが人間じゃないって、
知ってて。
うん。全然気にしないひともいるんだよ。
それにさっき言いかけたんだけど、
他にも人間じゃないひとは、
この町には何人もいるんだ。
それもロボットってわけじゃなくて。

ドロレスの困惑は深まるばかりだった。
アンはジェイソンの思考が
ある程度読み取れるようで、
ずっと沈黙していた。


b9

ずっとひとりきりだって思ってたけど。。。
この世界って
全然論理的じゃない世界なのね。

日が暮れかかるなかで
二つのロボットはずっと
よりそって佇んでいた。


解説)
ルビーがジェイソンに手袋をくれたのは、
2021年11月29日の「ベーカリーの前で」
の最初の画像でした。
それがこんなエピソードにつながるとは、
ものごとの流れはわからないものです(^^;)
Posted at 20:48 in n/a | WriteBacks (0) | Edit
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