Jul 05, 2021
ジャンの倉庫
倉庫は家の右手の建物だよ。
工作室も兼ねてるんだ。
とジャンは言った。
屋内は見かけよりかなり広くて、
奥の棚にはバービー人形や兵士のフィギアや、
軍用車両や工作中らしきジオラマの類が、
所狭しと並べられていた。
ジャンはがさごそ探していたようだったが、
やがてミネラルウォーターのボトルを
もってきた。
お茶でもと思ったけど、
せっかくだからこの水をどうぞ。
これは友人のジルから貰った
とっておきの特別おいしい水なんだ。
なんでも迷いの森の泉から
密猟者が汲んできたっていう代物で、
夢見の水っていうらしい。
氷を入れたカップに水を注いで配りおえると、
まず最初に、とジャンは言った。
これまでのことを説明するとね。
僕は写真が好きで、最初、第二次世界大戦の時の、
ドイツ軍の軍用車両のデザインに惹かれて、
ミニチュアモデルを撮影してたんだけど、
そのうちにリアルな背景も一緒に撮りたくなって、
庭でジオラマをつくるようになったんだ。
さっきみたジオラマですか?
とナオミはきいた。
最初のうちは、当時のいろいろな戦地の風景。
もう壊しちゃったけど、
たとえば北アフリカ戦線の情景とか。
あ、それでここに砂漠の狐って呼ばれた
ロンメル将軍がいるんだ。
彼が乗ってた無線搭載通信車のグライフもあるし。
ナオミなんでそんなにくわしいの。
とたまきがいった。
で、最近映画「マーウェン」や、
その映画のモデルになった人のスチール写真をみて、
これまで個別に作っていたジオラマを、
まとめて村のようにしたら面白いと思ったんだ。
とジャンは話した。
マークさんの村「マーウェン」みたいに、
庭全体がひとつの村になるわけね。
うん、まだはじめたばかりだから、
あちこちで土の色が違ってるし、
建物も都会風だったり田舎風だったり、
統一感がないんだけどね。
すこしずつ修正して家も増やしていくつもり。
それに撮影するのはたいていどこか一箇所だから。
それでさっきお庭で聞いたみたいな。
とたまきがいった。
お話をつくって撮影して愉しんでるわけね。
ドイツ軍に占領されている村を
ジョー軍曹が地元の人たちと協力して
取り戻すっていうようなストーリー。
うん。
これまではただ思いついた情景をつくって、
軍用車両を置いて撮影するだけだから、
ほとんどなにも考えてなかったけど。
村の話となると、
どうしても兵士や村人が主人公になる。
まったく違う世界で新鮮だよ。
とそのとき、
ドアを激しく叩く音がしたかと思うと、
ドイツ軍兵士たちがなだれ込んできた。
手をあげて。
われわれは最近村に潜入したという、
米軍兵士を捜している。
怪しいものを見なかったか。
というか、三人ともかなり怪しい身なりだわね。
そこのすいか。とくにあやしい。
今年はもうスイカたべたの?
君はだれだと誰何する、なんちゃって。
と黒服の女性士官がいった。
解説)
今回はジャンの倉庫兼工作室が舞台です。
この情景は居間にあるライティングディスクの
テーブル板を広げた状態で、そのうえで撮影しています。
居間の床には所狭しとジオラマが並んでおり、
撮影のためにフィギアをもって二階と行き来する手間を
避けるため、手近な撮影場所にしてみたのですが、
その結果フィギアや小物類が入り乱れて、
居間はすごいことになっているのでした。
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