Feb 05, 2025
エレナのことなど

アイスたちは挨拶を兼ねて、
ハリー夫妻の泊まっている部屋を訪れた。
あいにくカーミラは席を外しているが、
ゆっくり寛いでくれたまえ。
噂では色々聞いていたが、
実際にレプテュリアンと会うのは初めてだな。
私は魔族のハリー。
太古の昔には、私たち魔族は君たちと
随分交流があったと聞いているが。
みんな忘れてしまっていますがね。
私はリザード。そんな大昔から生き永らえている
レプテュリアンの一人ですよ。
私はシベール。私もその一人です。
あなたの娘さんがフミコを蘇生させたと聞いて、
ぜひお会いしてみたいと思っています。
ふむ。娘の呪力に興味がおありのようですね。
このホテルに来る宇宙からの訪問者というのも、
そういう方が多いのかな。
それはもうさまざまです。
宇宙連合に加入している多様な惑星から来るので、
文明の程度も特色も異なるものばかり。
わざわざこんな銀河の辺境の惑星に興味を持つのは、
なんらかの価値を見出しているんでしょうが、
それぞれの意図まではわかりかねますな。
私たちは地球オタクと呼んでいますが。
私たちがこの星を保護観察下に置いて、
宇宙連合からの訪問者を手厚くもてなしているのは、
彼らの行動を監視するという意味もあるのです。

この星を保護観察下に置いているというのは、
あなたたちの勝手な言い分でしょう。
私たちが頼んだわけでも
契約を交わしたわけでもない。
とアイスが言った。
そう言われれば、そうですな。
わははとリザードは笑った。
はるか昔に宇宙のフロンティアだった私たちが、
この星を見つけて住み着いたのです。
人類とは文明の程度がはるかに異なっていましたが、
私たちは侵略も収奪もしなかった。
魔族たちと仲良く暮らしていた時期もあった。
さる事情で人類との接触を自ら禁じるようになりましたが、
今では異文明惑星の侵略から守り、
いつの日か、宇宙連合の一員になれればいいなと、
この星の科学文明の発展を生暖かく見守っているわけです。
それが保護観察下にあるという意味です。

いいことをしてるつもりなのね。
でも人類が出ていって欲しいっていえば、
この星から立ち退いてくれるのかしら。
ふむ。宇宙連合にその要望が届いて、
連合が妥当だと判断すれば、
私たちも従わざるを得ないかもしれません。
彼らに敵対すると母星ごと滅ぼされてしまう。
だから私たちもトラブルを望まず、
空気のように身を隠しながら、
連合との友好関係にも、
こうして気を配っているのですよ。
いいことを聞いたわ。
シベールさんは、本当はヴィヴィアンに会って、
蘇生の呪法の秘密を知りたいんでしょう。
もしヴィヴィアンに何かあったら、
宇宙連合っていう組織に訴えますからね。
とマリアが言った。
う。それは誤解です。
噂に聞く高名な悪魔と、
お話ししてみたいだけなんですよ。
とシベールが言った。
ふむ、ついでにお聞きしますが、
あの管理局というのはどういうものなんですか。
とハリーが言った。
あれは宇宙連合とは別組織です。
銀河系には宇宙連合の他にも
そういう諸惑星の共同体がいくつかあって、
惑星間戦争を繰り広げている連中もいる。
まるでスターウォーズですな。
あれは面白い映画だ。
あ、失礼。
管理局は、全く異質な組織で、
スタッフは銀河系でスカウトされる
さまざまな惑星の出身者ですが、
その上部の連中は別宇宙から来ていると
言われている。正体不明ですな。
とリザードが言った。

随分お話しをしたようだ。
そろそろおやつの時間なので
我々は退散します。
とリザードが言った。
あ、アイス。
すまないけど、
ノヴァとエレナのことを頼むよ。
それとなく気に留めてくれればいいんだ。
機嫌よく観光してもらえればいいだけだから。
わかったわ。
ねえ。リザードさん。
おやつっていつも何食べてるの?
とマリアが言った。
それは内緒です。

リザードたちが去ったあと、
アイスがホテルのフロントに行くと、
ちょうどリンリンと出くわした。
ノヴァさんとエレナさんは?
ノヴァさんは散歩に出ていかれました。
エレナさんは食堂におられるかと。

アイスが食堂に行くと、
エレナが一人でコーヒーを飲んでいた。
あ、エレナさん、先程はどうも。
あら、アイスさんでしたね。
よかったらそこの席にどうぞ。
ちょうど話し相手が欲しかったところよ。

やっぱり来てよかった。
この星のコーヒーの味って、
格別ね。
私もコーヒーは中毒気味。
もしかしてエレナさんは
このホテルにコーヒー飲みに来たの?
そんなわけないでしょ。
とエレナは笑った。
私はこの星の文化や芸術に興味があって、
もう何度も来てるの。
見かけがこの星の人間そっくりでしょう。
そういうお忍びの宇宙からの訪問者を
レプテュリアンは嫌がるみたいだけどね。
私はあなたの暮らす町にも行ったことがあるのよ。
たまきっていう人からあなたの噂も聞いていた。
できれば彼女にまた会いたいなあと思ってるの。
町に来たって、いつ頃の事なの?
あなたたちの暦で去年の5月の末のこと。
東京の人形の展示即売会を見に行ったら、
たまきと知り合って、
私の旅行目的だったシュールレアリストの
キリコの展覧会に付き合ってもらったの。
それで仲良くなっちゃって、
あとで彼女の住む町に訪ねていって、
たまきに勧められて、
コンテストに参加したら優勝しちゃった。
なななんと。

エレナはサングラスを外した。
その頃私はアフリカに遺跡調査に出かけていて、
6月初めのコンテスト発表時に町にはいなかった。
それであなたが優勝したこと全然知らなかったのね。
とアイスが言った。
そのようね。
ここはアフリカでしょ。
たまきやあなたの住む町までかなりかかるかしら。
鏡の扉を使えば瞬時に行けるわよ。
あ、もう一人のノヴァっていう人が
この星に来た目的はわかる?
さあ。よく知らないけど。
彼も相当な地球オタクだって聞いたわ。
この星に何度も来てるらしい。

アイスは結局、
たまきに会いたいというエレナの願いに
付き合ってあげることにした。
アイスの呪力を使えば、
この場に鏡の扉を出現させることもできるが、
散歩がてらフラハの家の裏庭にある
常設の鏡の扉から町に戻ることにして、
ノヴァのことは、シーザーに頼むことにした。
ジャングルを散歩してるそうだから、
見かけたらそれとなく気にかけるように、
みんなに言っておいてね。
危険がないように。
わかりました。
ホテルの大切なお客さんですからね。
解説)
続きます。
WriteBacks
http://haizara.net/~shimirin/blog/kirita/blosxom.cgi/20250205202154.trackback
writeback message: Ready to post a comment.