Mar 09, 2024
春の足音 そのろく
モモコはベランダに出て、
トマソンに声をかけている。
お仕事中突然すみません。
私モモコと言います。
路上アーティストのトマソンさんですね。
あ、はい。
そうですが。
新聞のインタヴュー記事で知ったんですが、
トマソンさんはこの世界の6倍スケールの
とてもクリアな夢を見られるとか。
私もそんな夢を何度か見たことがあるんです。
信じてもらえないかもしれないけど、
その世界にはジェーンっていう友達がいて、
私はあれは夢なんかじゃないって信じてるんですけど。
なんと。そうでしたか。
僕の夢の場合は、人は出てこないなあ。
本当にクリアな夢を見るようになったのは、
最近のことなんですが、そこはたいてい
同じ一軒家の室内。
それもキッチンや居間のような場所なんですよ。
そういうと、トマソンは、
ノートに描かれたスケッチを見せてくれた。
わーすごく細密ですね。
これは居間のようなところです。
こたつがあって。
それはキッチンですね。
いつも結構散らかっていて、
オブジェの宝庫なんですよ。
そのスケッチは廊下です。
手作りの本棚が片面に並んでいます。
あ、もしかして
この突き当たりが玄関で
その手前の左手に階段が。
とモモコが言った。
なんと。
その通りです。
階段はそんな感じで。
このトマソンさんの夢の世界って、
ジェーンの住んでる家と同じだわ。
私、この階段を登ったことあるの。
とモモコが言った。
不思議ですね。ある種の夢の世界って、
繋がっているっていう話を聞いたことがあります。
僕もこの夢があまりにリアルなので、
どこかに実在する世界ではないかと、
疑っていました。
駒井今子が様子を見に来た。
モモコ、
部屋の中でお茶飲みながらお話しない?
雨になるかもしれないわよ。
解説)
続きます。
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