Jun 12, 2022
梅雨入り そのご
ベーカリー前にCGのバギーが
乗り付けてきた。
降り立ったのは少佐だった。
春節の龍の踊りの時以来ね。
ドルフィンでさっそく会合が開かれている。
今回の公園の乱闘騒ぎについての
報告は聞きました。
随分派手にやってくれましたね。
最初から殺意を持った連中でしたから、
ああするしかなくて。
アンジーはああ言っていますが、
アンジーが誰も殺さなかったのも、
ヴィヴィアンの吸血行為を許容したのも、
前もって決めてあったことで、警告のためなんです。
あの英国のマフィア組織は確かに厄介な存在ですが、
少なくとも今のボスは秘密協定は順守している。
あれで自分達の標的と、ヴァンパイアとの関わりを
知れば、確実に手を引くと思われます。
ところで、ヴィヴィアンの処遇について、
結論は出たんですか。
とジョンが言った。
残念ながら、CGと主要国の諜報機関によって、
新たに評議会がつくられて協議の最中です。
それにMI6の対応を問題にしているわけではありません。
むしろ表向きは乱闘事件そのものをもみ消した上で、
評議会で事件の噂を流すのに役立ちました。
CGが直接ガードしているらしいとなれば、
各国の諜報機関も手を出しにくくなりますからね。
いや寄り合い所帯の駆け引きは難しいんですよ。
今日はそれを伝えに来たわけでなく、
二つの問題が発生したことを。
一つは、
ヴィヴィアンに咬まれて瀕死の失血状態だった男性が、
輸血中に病院から逃走したのです。
周知のことですが、ヴァンパイアに咬まれた人間が、
必ずしもヴァンパイアになるとは限りません。
ただその可能性も否定できず、状況から言って、
その男性が驚異的な回復力を得たことだけは確かです。
もう一つは、
ヴァンパイア一族の一部の過激派グループが、
ヴィヴィアンに接触しようと動き出したという情報です。
これが問題なのは、その首領が、魔族らしいのです。
魔族っていうと、ハリーのような魔法使いの一族ね。
CGも近年やっとその存在を認めるようになって、
専門部署がつくられたって聞いてるけど。
彼らは、ハリーの魔術劇場みたいに神出鬼没で、
国境を無視して移動するからね。
そうなると、これまでのような護衛体制も
見直さなければ、という議論も出ているところです。
と少佐は言った。
まさかCGがこの町全体をロックダウンするとか。
とアイスが言った。
都市封鎖の話までは。
と少佐は言った。
国家をまたぐ評議会まで作られて
彼女の処遇が問題になっているのは、
各国政府の思惑が食い違うからです。
ヴァンパイア一族の長寿と卓越した身体能力の研究は
主に医療と軍事の両面でなされてきました。
しかし、大きなネックがあって、
ほとんどの研究は頓挫したままだった。
それは彼らが夜行性で、日中休眠状態で過ごすという特性です。
突然変異種の登場によって、それが克服されたとなれば、
また各方面での研究競争が始まるでしょう。
今は秘密協定によって事実上人類の保護管理下にある
大半のヴァンパイア族にとっても朗報のはずです。
国際組織としてのCGの立場は明瞭で、
かっての「超人計画」のような軍事研究には反対ですし、
個人としての当人の意思や生存権も尊重したい。
ただ表面上評議会でそれにかなう決定がされたとしても、
水面下で彼女を独占しようとする動きは止められません。
しかしCGが評議会に名を連ねていることの意義は重大です。
そうした国家や組織はCGを敵に回すことになりますから。
解説)
長すぎる話をしている少佐というのは
CGでのニックネームで、
本名は不明です。
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