Mar 27, 2007

再生

いつも遅れた
こども
わたしは
いつもはじっこ
冬空の雲
あの子がおそってきて
こどものわたしは逃げ続ける
汚れたドラえもんのトレーナー
こわれたタイムマシーン

庭の桜はかたく
ぴりぴりした朝が好きだった
悲しい雨戸
どうしようもなく過ごした

時間をどこまでもひきのばしている
わたし
みらい
にょらい
縁起
歩いている四天王寺の通り
今きみと

悲しい雨戸
冬空の雲
かんちがいして明るい気分
想像できないくらいの奇跡
硬く握り締めて生まれなおそうとしていた
瞬間のわたし
ランドセルをかついでいた
縁起かつぐ
何をかつぐ
わたしの考える未来をかつぐ



※tab1号所収
Posted at 16:23 in poem | WriteBacks (0) | Edit

白い腹

今 テレビの画面の中で
メジロがツバキの花を
ついばんでいる

昔お父さんが庭で白い息で
「ほら、和広、メジロやで」と指さした

もうだいぶメジロをみてないな
あの黄緑色の
小さく素敵なふくらみ
白い腹

ニンゲンの会話は
小鳥のさえずりみたいなもんだと
ある人が云った
そのことをよく覚えている

ぼくの声は何をふるわせているの

夜の星空をかけぬけ
ぼくのさえずりは
あの人のもとへ送信される

あくびをする
ベッドにあおむけになって
おやすみという
寝室におやすみが広がる
ぼくは冬空に光る星や
春に咲く花の声を思う

暗やみが微弱に鳴いて
ぼくはねむりにおちる



※かたつむりずむ第1号所収
Posted at 16:18 in poem | WriteBacks (0) | Edit

Dec 18, 2006

昼下がりのテーブル

コーヒーカップの横に、本がある。
『「待つ」ということ』 そう本がささやいている。
私の心に問われた。私は何を待っているのか?
コーヒーをかきまぜてみる。
耳が頭がカラダがざわざわしている。



ある日
バスを待っていた
私はバスに待たれていない
単純な事実
ぼんやりと立っている
運転手は時間を追いかける
乗客には用があり
私も学校に行くだけだ
雨のふる日
さむい朝



思い出すあいだ、私はわからないくらいの速度で、年をとる。
小さく小さく年をとる。
バスを待っていた私は、あんなに赤い頬をしていたのに。



それから
あの人の言葉を待っていたことがあった
言葉ではなく心だったのかもしれない
すごく天気がよくて
仕事が休みの日に
あの人と公園にいき
あの人はブランコに乗り
私は背を押した
ぶうーん
ぶうーん
ゆれるのは視界も同じで
加速がつきはじめて
あふれそうになり
小さな背を押しながら
私はあの人の言葉を待っていた



今、私はそんなに用事がなく、せきたてられていないのに、あせる時がなぜかある。
何か大きな山のようなものが、待っているのかもしれないと思う。
そして私はその山に待たれている。小さな緊張が、波となって、よせてはかえす。
なにかはわからないものの前に、立ち、少しずつ生きている。

コーヒーが冷めはじめている





    *鷲田清一『「待つ」ということ』角川選書
    ※初出「かたつむりずむ」1号
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Sep 15, 2006

白い息

背がとまってしまってから
もう何年もたって
ぼくはますます自分の存在の小ささを感じるのです
空を見れば、もっと
闇につつまれて、さらに
優しい人に会うと、うーんと
ぼくはこの小さな存在で
かろうじて息づいていることを感じます
まるで小さなかえるになったように

小さな葦がゆれている河原に立てば
とおくにゴミ処理場の煙突が白い煙を上げていますが
がんばって星をみるのです
星は大きいけど
目に見えるのは小さい光の粒
それらがつながって大きな家族をつくっているようです
星は魂と同じだから
ぼくが宇宙の絶対的孤独の中で
すごく小さな星になったら
大切な人や知らない人と抱きしめあって
星座になるのです
とてつもなく孤独だからこそ家族になれる
そんなことをけっこう本気で信じているのです

全ては幻だとしても
はかないことだとしても
そう思っていることは
ぼくにとって安心です

葦の河原から瞬間移動して
土の匂いがしてきます
生駒山がみえて
田んぼが並んでいて
ぼくのおじさんの小さな町工場がみえます
おじさんはもうおばさんとねむっているのでしょうか
不思議にこのあたりはなつかしく
星がさらにつよくざわめくようなのです

ぼくはそんなにからだの小さな男でも
大きい男でもありません
まあ中くらいです
中くらいで弟に背は負けるけれど
そんなぼくは根源的に小さな存在なのだと感じた今
色んなものが
やっと当たり前の大きさを取りもどしはじめて
ぼくはベットで目をつむりながら
ぼくに与えられた光と闇のことを
素直に感じます

小さい頃遊んだ冬の公園がみえてきました
人工的な沢があり
百舌が鋭く鳴いています
まだ人気のない朝
父親と歩いていて
ぼくは底知れず肩を落としたり
弟とじゃれあったりしています
そして
そこを走るぼくの白い息は
今ぼくのところまで届くようなのです





*COAL SACK55号 2006.9.15発行に縦書きにて掲載。
Posted at 16:31 in poem | WriteBacks (2) | Edit

Apr 03, 2006

見守っている                

ベランダですわって
タバコを吸っている
カラスの鳴き声が聞こえてくる
黒い羽をのばしてカラスが雨の中を横切っていく

落ちていくもの
ぼくの場合 思い出の中を
きれいできたなくて
人のいない思い出の砂嵐の中を
そして
美しく横切っていく平凡で気高い鳥

ぼくの体の中は波打ち
しかしまだ踊っていない
うなだれるにはまだ早い
ビルがたくさん立っている中を
かあかあと飛んでいく
ぼくはカラスになりたい気分だ

犬のほえる声が聞こえて
少しはっとした
生きものの声が耳打ちする
なんとかゆらゆら暮らしているが
「お前の本当の幸せは広い広い海の中にある」

だから大丈夫
苦しい思い出に苛まれていても不器用に歩いていても
大丈夫
「わたしたちが見守っているから」と

くぐもった空の中 四月の雨が少しやさしくなった
いくつかの鉢植え





(注)合評会提出作品
合評会で、一人は、「波打つ」という表現と「海」が重なって「幸せ」は自分の中にあるのかなといっていました。あと人は愛情を持って本人を「見守っている」しかできないからといっていました。親心のようなものをそのコメントから感じました。
もう一人は、前半空を見ていて、そこは狭くて犬がほえるところで、読者も一緒に世界が広がるといってました。詩空間の変化に着目してくれた感想だと思いました。

読んでくださった方よかったらコメントください。この詩に限らずでいいです。よろしくです☆
Posted at 01:03 in poem | WriteBacks (2) | Edit

Mar 29, 2006

飛行

「悩んでいます」という場所の
奇妙な安定感
むさぼる後ろ向きの安逸
それらに苛立つ
しかしそれははじまり
冷たい風がふく
ゆっくり歩いている
スタンバイする
内観する
飛行へ

からっぽがふくらんで
大きく大きく風がふいていく中を
降下していく鳥
鳥たち
わたしたち
ぼくは過去におそわれている
おそわせている
大いなる生きることの限界まで
落ちていく
ぼくは鳥
生きている
ウィルスをまきちらす
ウィルスのように広がり
繁殖し多数になること
抵抗すること
やわらかくあらがって迎え入れる空間を作ること
でも届かないかもしれない
詩人の
そしてその外へと
詩へと

とんでいく
風にもまれている
届けばいい
詩人の
詩人の
そしてその外へと
詩へと
Posted at 16:46 in poem | WriteBacks (0) | Edit

Mar 13, 2006

あの日

言葉が固いということは
からまりよりも厄介で
陸橋を渡る
空が雲をつきぬけて
彼方へとすべっていく
だから
ぼくは
うたうことを
禁じたのだ
あの日に

あの日は
診察室で
舌を透明手袋でなぜられて
大丈夫ですよと云われた日で

そんなはずではない
ぼくは舌ガンだと
強く
感じた
かたまりが
マグリットのように
夏の空をこわしたので
病院のくらい天井が
世界の全てだと
とらえられたので
ぼくは異常だった

愛を送る
あの日に

迷いながら
つま先をトントンしながら
唯物的な日々
神よ 汚してくれ

愛を送る
あの日の
ぼくに



*詩の雑誌ミッドナイトプレス31号「詩の教室」掲載
Posted at 15:42 in poem | WriteBacks (2) | Edit

Mar 06, 2006

三月

歩く すきまだらけのからだに
すぐさま
圧倒的に
言葉の貝がらが入ってきて
それは ひとのにおいがして
たいそう悲しい春先の光となる

光だけだと寒いから
あなたは空とつながって
どうか言葉の貝がらを拾ってほしい
ぼくは寝ているから
ぼくは少しの間死ぬから
嵐の後の砂漠のように
見知らぬ女の子が泣いていた

いのち みたい
それに春先の光が当たって
あなたがまだ少しだけ足りない



呆けたおじいさんは熱い湯船につかった
シルバーシートには会社員男性が
つかれてねむっている



三月
もの憂げな戦い
もうなにもないかのような
あふれる季節だろう
Posted at 18:30 in poem | WriteBacks (0) | Edit

Feb 27, 2006

それぞれの時間

車いすを押して歩いた
そんな日があった
Oくんはひざかけをして
「石川さん、こんにちは」と云った

「こんどな お父さんと…奈良いくねん」
寒い道だ
空が透明な血のかたまり
ぼくは夢の中を歩いている気分だ

そうなんや ええなあ
車いすの背中から
ぼくはそう云って いくつかの
曲がり角を曲がって
段差でガタンとならないよう気をつけながら
グループホームについた

ただいま
靴を脱がせる
Oくんの指先がけいれんしている
バンドをはずし 上着を脱がせ
室内用車いすにうつしかえる
ちょっと気つけてや
「わかった」
それから部屋まで押していく

ダイニングの床をとおりすぎ
同居人のHさんはテレビつけっ放しにして
ねている

Hさん 帰ったで
「Hさん何してんの」

Hさんは「いやん」と言いながら
起きて笑って近づいてくる
Hさんは40代で
仕事もしていたが挫折した人だ
酒には時々だらしないが
人間はできている人だ
度のつよいメガネをふく
スラックスにセーター
知的障害者で大卒だ

みんなでTVをみる
「まだ阪神はじまらへんの」
うん、今、冬やしな
「阪神優勝するかなあ」
「せえへん」とHさん
みんなで笑いあったり
ぼくは後から来た介護者と
米をたいたり 洗濯物を取り込んだり

Oくんが「おしっこ」という
だからぼくは「おしっこ」をとりにいく
静かな時間が流れる



流れた

もう4年もたった
どんどんわからないことが増える
みんなで過ごしたことも
その意味も確かにあるのだけれど

歯が浮くような疑問だが
障害って何だろうね
ぼくも病んだ心をもった
まっすぐに伸びる手
折れまがっていく
段差もあるけど
段差だけじゃないだろう

もう一度お話できるか考える
そのあとさきにふれる
今はこうとしか書けない
とてももどかしい

でも記憶は生きているんだ
Posted at 16:59 in poem | WriteBacks (0) | Edit

Feb 01, 2006

遠い手紙

孤独な日には時雨る
空気が重い
わたしは一日中寝た
黒人が
国道脇を歩いていく
何人も
わたしは絶望しない
楽天でもありえない

遠き友より手紙きたりて
わたしは
寂しい夢を追い返す
外は霧
昨日は疲れた
速いくらい
人が集まってくる

わたしは集まりの中に入れない
わたしの狂気は
わたしを人の外へ
おいやろうとする

わからない顔が何度も
浮かんで
それに逆らえずに
また
うつら
うつら

うつの中に
空っぽの中に
わたしがつまっていて
遠い手紙はわたしを
勇気づける
とてもいいことだ
最高だ

古いうたが聞こえて
夕方になる
空は白

わたしは
少しいきかえる

そう
いろんなことがあったね
これからもあるね
悪いことばかりじゃないよね

黒い部屋に
昼から
電灯がぽつり
たばこ四本
缶コーヒー
時間がとまる

テレビの上の花は
正月から
枯れてない
障害者手帳

不意に句読点がくる
今日は
空が見えない
遠い手紙よ
それも空だ
Posted at 13:33 in poem | WriteBacks (0) | Edit

静かな海

よろよろと海岸線を歩いていると
月が見えた
タバコの煙が風に乗って流れた
ああ俺は
照らす光におびえながら立っている
それから海に向かって眼をやった
錆びた商店街が背中にあった
波は無限に近く色を変えながら
どぶ川の色で
俺とは無関係に東のほうへ流れていく
漁船が見えた
うすもやに鬼火のようにちらちらと
眼の中を光が曳いてゆく

さっき夕方まで、子どもと海辺の公園で
砂遊びをしていた
トンネルを作って子どもの手を
静かに握った
「おっちゃん、トンネルつながってるなあ」と子どもはいった
最近の時勢このままでは誘拐犯とまちがわれるなあと思いながら
それでも、遊んでくれるんで、遊んだ

そして部屋に帰って薬を飲んでテレビをつけっぱなしにしながら
眠った
いつもの海に近くない俺の部屋だった
夢だった
鷺が「死にたくないよう」と鳴いた
俺みたいな顔をしていた。
寝言で起きた
死にたくないようといったようだった
それから、夢に向かっている友達の夢を見た
そいつは、ぼくをはげましながら、みづからも世間を恐れている
いいやつかもしれないと思って
手を握ろうとしたけど、そいつは透明だった
生活が散文の羅列になり、文字が何千行浮かび上がっては消えた
もう詩が書けないと思うと、父が出てきて、母と空を飛んで
「和広ラーメンを食べなさい」といった
それから、二人は黒い鳥になって、闇の中に消えた

最後にいつもの部屋で俺は、コタツに入って
うつらうつら考え込んでいると、まぶしい光が差し込み
いやに明るいのに惑いふらふらと立ち上がると
そこは繁華街の裏の路地でコケが生えて
二人がセックスしていた
俺はつまずいてつまずいて
どこへもいけないとおもうと起きた

静かな海に入って眠ろうと思う
そうすれば仕事どうするかの答えは出るだろう
Posted at 13:26 in poem | WriteBacks (0) | Edit

Jan 06, 2006

生まれたことを

生まれたことを
ふだんから考えているかわからないで

生まれたことにささる月影がきれいで
わたしはここにいました

犬が吠えていて
寒くて
でも
少しずつ
結晶になる世界
お母さんの顔

もうあまり
迷わなくなってきて
少しずつ
通いあうこと
通いあえないこと
あって
字がふるえて

大丈夫かもしれない
わたしは
少しずつ
何だか生きているようで

今日は誕生日だから
少し素直になろう

まずい詩も書いた今日
はじめての人にあった今日
大雪がふったらしい今日

困っている人に
愛を送れれば
でも
そこまで
まだ
行けない
から
から
わたしは祈ろう

なんとなく
大切に
つながって
切れて
みんなに
祈ろう

素敵な人を
祈ろう
Posted at 23:58 in poem | WriteBacks (0) | Edit

Dec 28, 2005

ねじれていたい

消えたイメージ

もうそこには
いられない
あたたかい
わたしたちの胸には
消え残る
スケープ
展望の
ささやかな
望みだけがある
のだろうか?

白鳥が舞う
山の端を
そして
悲しい
悲しさは
禁じられようとしている

そして貧しさは
笑われる
電脳の
首相の
次官の
時間の薄笑い

公園の
ブランコの向こうから
牛乳が運ばれてくる
みんな
どうしているの
誰?
誰?
誰?
手をかざしている
天皇の
悲しみの
届かない
爆撃
そして
料金不払いの
冷え冷えとした空間
雲っている
わたしたちは
手を
しどけなく
垂らしたまま
水平飛行に
入る
地上が見える頃には
哲学者がむかえ
うたがいながら
もうすぐ着陸します

そう
語ってはならない
のだろうか?
難しいことを
語っては
ならない
のだろうか?

わたしが生きているのは
醒めた
古ぼけた大地で
金が死に
かわいそうな
お母さんたちがまっている
女の子が絵をかいている
逮捕された外国の人は
偽名を使っていたが
逃げるだけの
何から?
少し涙する
人の
なんでそうなるのだろう
そして
子は
どこへ行ってしまった
安置の
さむい言葉の
もしかすると
弱い者は
さらに
哀れまれ
守られようとして
更に
暴力の
地平に
たたきつけられ
うばわれ
間を裂かれ
もう友達になれないのか?

詩は
詩は
そのなかで
どうしてか
ブラックボックス
とおまきに
あるいは
直線に
行こうとするのか

やめなさい
せめて
ねじれていたい
戦後の山の
重なりの
その
遠く
ねじれていたい
批評なり

明日から今日へ
そして明日へ
Posted at 20:57 in poem | WriteBacks (0) | Edit
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