Dec 10, 2006
戦争出前噺
今日は、こないだテレビで特集されていた、本多立太郎(ほんだりゅうたろう)さんの講演を聴くために、JR宝塚駅前のソリオホールに行ってきた。思ったより、全く暗くなく、元気をもらえるお話だった。その名を「戦争出前噺」という。本多さんは3時間しゃべるつもりできたらしい。どうも、打ち合わせに手違いがあったみたいで、もう少し早く終わったが、姿勢良く、声もいやみがなく、ハリがあって、人間は年関係なく、前向きな人は前向きなのかと思われた。彼の講演の見事さは、1150回という回数で、慣れてしまうというものではない。もちろんイデオロギー的には、色々あるだろう。きちんと人を殺したという罪責感を話している。感情を固い話という枠にはめこまれずそのとき感じた実感を手放さない。例えば、田中という兵士の話。田中と同じ汽車に乗って出征した彼は、田中のお母さんと妹が見送りをするときに、彼女らは、取り乱し、追いかけて柵を突破して、田中の名を叫ぶ。彼女らは憲兵らにすぐ取り押さえられて、ぼこぼこに。しかし、兵士は声を出してならない。田中はしばらく呆然とした後、母と妹に向かって、涙を流しながら敬礼したという。本多さんは、それを見て、自分の母代わりのおばあさんが、取り乱すのではないか、どうしようと不安になる。本多さんの郷里(小樽)にたどり着いたとき、おばあさんと父が出迎えに来ていて、本多さんは一生懸命笑顔を作ったという。それを見たおばあさんも答えるように、ニコニコし続けて見送ったという。するとほっとしたと同時に、おばあさんはなぜニコニコ笑うのだろう、育ての親とはそんなものか、なぜ泣いてくれないのかと悲しくなる。
しばらくして、出征地先に父から手紙が届く。実はおばあさんは、あの後ショックのあまり、ご飯が食べれなくなり、何日か寝込んだ。おばあちゃんは精一杯笑ったのだ。おばあちゃんは心のなかで泣いていたのだ。そのことに感謝せよという内容だった。それを読んで本多さんは泣いたという。発言が封じられている戦禍の中の話だと思った。
こんな感じが私のようにしどろもどろではなく、感情をこめて話される。ここには、生きている人間がいる。そう思うのだった。数々の反戦教育の中では感じられなかったものだ。私はたぶん私の亡くなった母方のおじいちゃんと同い年くらいの本多さんを見て、同じく兵士だったおじいちゃんを思い出した。祖父も間一髪で生き残ったのだった。
加害者の話というのは、なかなか話されることがないので(ゆきゆきて神軍は少し違うがそういう部分もあったと思う)貴重である。けして正当化することなく、孫のためというプライベートな動機が彼を支えている。きちんと議論してきたのが、中国の大学生で、大学生は本多さんの恋の話を聞いて「あなたの思い出話を聞きに来たのではない。戦争の話をしてくれ」といったそうだ。本多さんは肯いて「好きな人と別れなければならない。別れというのは戦争を生きる人の大事な要素だ」と答えたという。
私はここ最近元気がなくて、元気をもらったことは事実だった。それだけでも大きい。人間から伝わってくるエネルギーのようなものを感じた。ところで、本多さんに河上肇をよませたお父さんとは何者だったのだろう?子どもをどう育てたかったのだろうか。
竹内浩三『戦死やあわれ』や鶴見俊輔の『戦争が遺したもの』が再び読みたくなってきた。(鶴見さんの本は途中までしか読んでなかった。すいません)本多さんは吉野源三郎『君たちはどう生きるか』、日高六郎『戦後思想を考える』、鶴見俊輔『教育の再定義の試み』をあげておられた。いずれもアマゾンの中古で安く買えるようだ。『戦後思想を考える』はなんと1円から!いいのだろうか…
WriteBacks
戦争のこと、いろいろと考えさせられますね。
硫黄島の映画も公開されたし。
どうにもならない状況のなかで生きてきたひとやその話に触れると今の自分とは悩みのレベルが違うなぁと思います。
Posted by はに丸 at 2006/12/11 (Mon) 00:34:50
はに丸さん
うん、私も硫黄島の映画を見に行きたかったりします。はに丸さんは見に行きましたか?
昨日行った講演会は、私には、しかめつらして聴くような感じではなかったのがとても不思議です。自然なユーモアのある方で笑いもありました。戦争を体験したといって、何か特別な人になったわけではないと思った。だけど人間として感じることの難しさみたいなものがあるような気がします。
Posted by 石川和広 at 2006/12/11 (Mon) 07:07:38
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