Sep 10, 2009

オルフォイスへのソネット  リルケ ・・・メモ1 

redon-3

翻訳:田口義弘

 この詩集の初めには「ヴェーラ・アウカマ・クノープのための墓碑として書かれる」と記されています。
 
 このソネットは「ドゥイノの悲歌」が書かれた時期と大分重なっているようです。ただし「悲歌」のように第一次大戦などの大きな障害のなかで、ペンが進まず10年の歳月がかかったのに比べて、比較的順調に書かれたようです。このソネットに大きな影響を与えたものは、ポール・ヴァレリーの「海辺の墓地」でした。この詩は手書きで紹介するのにはあまりにも長いので、ここにリンクさせていただきました。この翻訳者の方は存じ上げませんが。リルケはこの詩を独訳していますが、この「海辺の墓地」との類想と対峙が「オルフォイスへのソネット」にはみられます。

 このポール・ヴァレリーの詩は、堀辰雄の「風立ちぬ」のなかで引用されている1行「風立ちぬ いざ生きめやも」でも有名な詩ではありますが、どうもこの1行だけが1人歩きしているような気がします。
 
 「ドゥイノの悲歌」のなかで呼び出される「天使」は、彼岸でも此岸でもなく、この大きな統一体に凌駕するものとして存在しましたが、この「ソネット」のなかでの「オルフォイス」は、神話のなかに登場する比類なき楽人のことです。神ではありますが、絶対化されていながら、無常な一個の人間としての姿も見えてきます。

 冒頭の4行は・・・

すると一本の樹が立ち昇った。おお 純粋な超昇!
おお オルフォイスが歌う! おお 耳のなかの高い樹よ!
そしてすべては沈黙した。 だが その沈黙のなかにすら
生じたのだ、新しい開始と 合図と 変化とが。



 ・・・・・・とはじまります。そこから第一部(1~26)第二部(1~29)の55のソネットが続きます。この冒頭の4行から予感されることは、1本の樹が立ち「昇った」という邦訳から、地上にこの1本の樹が在るということは、葉が繁り、花が咲き、果実が実り、ということは地下に眠るさまざまな死者からの「押しあげ」ではないか?と言うことです。梶井基次郎の「桜の樹の下には」なども思い出されます。

 この「オルフォイス」はかなりポピュラーな神であって、絵画、オペラ、彫刻、戯曲、バレエなどなどさまざまな分野で表現されています。わたくしの古い記憶を辿れば、映画「黒いオルフェ」もそれだったと思います。

 では序章はここまでと致します。

  (2001年・河出書房新社刊)
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