Aug 17, 2006

おとぎ話の忘れ物  小川洋子/文  樋上公実子/絵

otogi

 この物語の舞台となるキャンディー屋さんの「スワンキャンディー〈湖の雫〉」は有名だが、もっと注目されていることはこの店の奥にある「忘れ物図書館」でした。ここには先々代の放蕩息子が世界中の「忘れ物保管所」から集めた、古びた原稿を立派な装丁でたった一冊づつの本にして置いてあるのでした。その本は今までの「おとぎ話」の外伝のような奇妙なお話になっていたのだった。パロディーと言ってもいいかもしれない。それはとりあえず四話ある。元になっているお話はどなたでもご存知でしょう。

 ずきん倶楽部
 少女がふとしたことから知り合った人は「ずきん倶楽部」の会長だった。訪問した家にはあらゆる種類の「ずきん」が所せましと置かれていた。その倶楽部会員の最大の催し物のずきん祭りで、会長が誇らしげに披露したものは、おおかみのお腹にいた時に赤ずきんちゃんが被っていたとされる代物だった。ずきんには鉤裂き、おおかみの胃液の匂い。うへ。。。

 アリスという名前
 アリスと名付けられた少女、アリスは「蟻巣」とも言える。父親はある時アリスに「蟻の巣セット」をプレゼントする。これはわたくしにも懐かしい遊びだ。「セット」などは勿論なかったが、土を入れた瓶の周りを黒い紙でくるみ、土の上にはお砂糖やキャンディーを置いて、数匹の蟻を入れて、ガーゼの蓋をする。やがて蟻は地下道を掘りはじめる。黒い紙をはずせば蟻の地下生活の断面を見ることができるのだった。
 しかしアリスの蟻は、ある日覗き込んだアリスの鼻に吸い込まれてしまう。蟻はアリスのからだの中に地下道をどんどん掘り進めてしまう。蟻の不思議な国。こわ。。。

 人魚宝石職人の一生
 実は男の人魚がいるのだが、彼等は海面から体を出すと死んでしまうので、見た者はいないという。彼は深海の宝石職人。愛する人魚は地上の王子に恋をして、声の代わりに足をもらって地上の女性となるが、悲恋に終わり自殺する。宝石職人はいのちをかけて首飾りを砂浜において死ぬ。王子の妃はそのあまりにも美しい首飾りを見つけて首に飾るが、それは徐々に妃の首を絞めあげて。。。ううう。

 愛されすぎた白鳥
 深い森の入口に住む一人ぼっちの森番には、定期的に町から生活に必要なものが届けられる。その度に一つかみのキャンディーもあった。ある日一羽の美しい白鳥に出会った森番は、自分の一番の楽しみだったキャンディーを白鳥に与えた。毎日毎日。。。白鳥はキャンディの重みで湖底に沈み、一滴の雫となった。・・・・・・そしてお話は最初に戻る。ぐるぐるぐる。。。

 (二〇〇六年・集英社刊)
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