豆フグ
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豆フグ



青イソメをしっぽから三センチ指でちぎり
針に刺そうとするがくねくね逃げて刺さらない
薄雲に陽がかくれ、波の音がにわかに高くなった
八月も末だというのにまだぬるい十里塚の海に
へそまで立ち込んでさおを振る
投げても投げてもキスはあがらず、豆フグの群れに
餌を取られ糸を切られ、代え針もあと一本
唇がいがらっぽいのは、汗か海の塩か

そうだった
子供のころから夏はいつもこの浜だった
大きなハマグリをバケツ一杯とって焼いて食った
夕まずめは足元に投げるとすぐキスが来た
夜は裸の形に夜光虫が光った
あのころの輪郭からハラだけはみだして
切れ切れの記憶をさぐっていると
ときおりうねる波にバランスを崩し
斜めにかしぐ今年の水平線
よろけた足先に当たるものがあり
勇んであげるとアサリにあらず
爪をふりかざしたギジギジガニ

いつか陽は傾き、波の背を光が舞い
遠く突堤の釣り人は影にかくれ
ふりかえれば鳥海山はうすい桔梗色
あきもせず寄せては返す、ザ、ザ、ザザーン
体を冷やしに水辺へ来る友人に
またあがったフグをかかげて顔をしかめると
サルみたいに手をたたいてはしゃぐ・・・

サルボウガイ
タコノマクラ
(君タチノ名前、長イ間知ラナカッタヨ)
サクラガイに
コウイカの甲
胡桃三個
それらを沈めたまま
すっぱり切り取られた夏の結晶


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