曼珠沙華構造
清水鱗造
終わった花の黒い花茎は
すでに腐食が始まっているが
上空には
西の空にまで続く障子絵の
色墨がたなびいている
今は思い出すしかない
花盛りの細い花弁が繊細に
絡んで茂り
水際にしな垂れているのを
障子絵は繰り返し模様のように
横に流している
しかしときどき
白い肌を挟んで描かれているのはなぜだろう
光だけしかない部屋に入ったとき
肌に見えたものは白く反射する
金属の花であることがわかった
それはすでに遠くまで進んだ
曼珠沙華の幽かな染みの連鎖を
車両に写し絵にして押した
白い車体
白いレールが部屋を貫通して
壁から向かいの壁に
おもしろ電車ふうに走るのを
金属の雄しべ雌しべの形に
触ると痛そうな白いトゲを持つ
多数の幼生が
三々五々布団に座って
光の部屋の中で眺めていて
反響する囁きが
曼珠沙華電車の周りに
漂っている