異的 ほか

異的 ほか

南原充士
 
異的

生命は 絶滅したが 再生の見込みはない
静まり返った 時空は 時として 嵐を吹き起こし
火山を噴火させ 一面に氷河を張り巡らす
もはや 観察する目はなく 聴く耳はない
生物によって 感得されることのない 現象
自然を操るのは なんの意志か
内部も 外部も崩れ落ちた 現在
それ以外の 次元へと 解を求めるしかないのか


超異的

第一霊界の一万年 地獄さえ退屈を紛らせえぬ
すべての感覚が不変であることで 住人どもには
耐え切れぬ 見る無限 聞く無調 触れる無辺
切望されて 創造された第二異界への 入界資格
三回サイコロを振って 目の合計がゼロになった上
阿弥陀くじで はずれを引いた上 
百回のじゃんけんで 一度も勝てなかった者のみが
隠滅の契機を与えられる
夜明けの頃合に 餓鬼どもの寝静まった寝床をそっと抜けて
永劫の瀑布の滝壷へと落下する
背中に張りついた妬ましい視線を拭い去るようにして
第二異界へと行き着くと
おお、言葉には尽くせぬ様相の 迎えの者が待っている


極超異的

どうにも感受しえない宇宙があるとしたら
まったくなんの関係もなく生きている別の時空
なにかのきっかけで接触して消滅するとしたら
警戒を怠ってはいけないが回避する術はない
考え付かない時空 物理の法則の当てはまらない
想像もつかない素粒子 生物と無生物 存在と無
遺伝子 DNA 細胞 再生産 生老病死
一切をリセットして 否定して かき消して
虚空 虚無 虚仮へと 空無 空疎 空へと
おそらく固有の時空から生成する素粒子ごとの法則があり
それぞれの構造にそって理解が可能になる
滅茶苦茶を突き詰めようとする数学者から落伍は始まり
非 不 未 余 逸 無 奈奈 耶 苦 渋
凶器を手にして 乱射する群集が 湧き出して来る
わけがわからないことをつきつめようとする流行性感冒
逃亡を許さない看守たちさえ朦朧としてとどめがたい形
下手な考えを積み重ねて取得した博士号を見せびらかす物理学者の
作り過ぎた表情のみが無限大に広がるのを尻目に
アイデンティティを喪失した穴はまたすぼみねじれ飛び去り 
予想できない次元にまっさらな穴が出現するというような時空のゆらぎだけが
確かなものに見えてくる


至極超異的

とことん考え抜いた痕跡は足元の土を掘れば容易に採取可能だ
化石や骨や岩盤など 隠しようも無い手がかりを与えてしまう
わずかの想像力さえあれば この惑星の歴史を遡ることができる
問題は語り手の観察に基づく記載であることだろう
彼はなにを見 なにを聞き なにを理解できるかうすうす感づいている
肉眼では見えないものでも機械を使えば見えたと同様の解析が可能だ
五体を失ったときから観察は停止した
狭義の歴史は空無となり無機物の現象が流れるままになった
だれも時を計測しないので過去も未来も区別が困難になった
そればかりかここがどこかということさえ確定されてはいなかった
あるせまい場所と時間が与えられて初めて理論は構築されたのだった
とまることのない時間をとめて作った幾何学
ひとつの宇宙ですら鶏のように追っ手をかわしてしまう
もし万物が同時に勝手な方向に異なる膨脹率で伸縮したなら
急ごしらえのちゃちなスケールでは測れなくなる
仮定を山のように積み重ねて近似値をえいやっと継ぎ合わせて
おおざっぱな世間はこのうえなく便利になったが
どこに袋があるか トンネルがあるか 異界があるか
砂漠の中の一粒の砂金よりも 見当のつきようもなく
目隠しされ 羽交い絞めされ ぐるぐる回されて 放り出されて