土手の上を
三井喬子
土手の上を
言葉を失くしたお婆さんが歩いている
良いお天気
水は冷たいだろうねえ
いや そんなことは言わない
ただ視線が上下しただけだ
若い女が歩いてくる
小さな女の子を抱いて
桃の花みたいだねえ
いやそんなことだって言わない
ただ瞳が閉じたり空いたりしただけだ
言葉をなくしたお婆さんは
にこにこ
だって とても気持ちの良い朝だから
どんどん歩いているだけだ
土手の上を
土手が尽きても波の上を
波の上にも風が吹いている